羽田空港に設置されているセルフ手荷物チェックインシステム(写真=鈴木愛子)

夏休み、旅行先へ向かう人たちでにぎわう羽田空港。日本航空(JAL)の国内線が発着する第1ターミナルでキャリーケースを引いた旅行客たちが、大きなディスプレーが付いた機械へ向かっていった。

預けられた手荷物は全長3kmに及ぶレールを通り飛行機へ向かう(写真=鈴木愛子)
手荷物を載せたトレーにはタグが埋め込まれており、常時監視できる(写真=鈴木愛子)

旅行客が画面に映し出された操作方法に従ってトレーに荷物を載せると、荷物はベルトコンベヤーによって秒速10mで搭乗予定の飛行機まで運ばれる。トレーには旅客情報を記録したICチップが埋め込まれており、追跡が可能。荷物の紛失(ロストバゲージ)の心配は、理論上ゼロだ。

セルフ手荷物チェックインシステム(SBD)と呼ばれる、この仕組みが導入されたのは2020年。その前は、手荷物をグランドスタッフのいるカウンターで預けねばならなかった。繁忙期には1日当たり2万5000個を扱うため、長蛇の列が発生。搭乗時刻に間に合わず、航空機ダイヤの遅延につながることもあった。

JALによると、現在、SBDはターミナル内に38機。待ち時間は、繁忙期でも最大5分にまで短縮した。カウンター数は3分の1になり、スタッフも大幅に減った。新型コロナウイルス禍を経て旅客数が増加し続けているのに、このターミナル内ではスタッフの省人化を実現するという、逆転現象が起きている。

ターミナル内の人手にゆとりが生まれたことで、本社に出向して経営企画に携わるスタッフも増えている。SBDは、JALグループ社員のキャリアの選択肢を増やすという面でも貢献しているのだ。

車・半導体から骨つぼまで

このSBD全体を構築したのが、自動搬送システム大手のダイフクだ。工場や倉庫でモノを効率的に動かすシステムを指す「マテリアルハンドリング(マテハン)」市場でのシェアは世界トップ。25年12月期の売上高と営業利益、純利益はいずれも過去最高になる見通しだ。

下代博社長は30年までに「物流の完全無人化を目指す」と意気込む。25年12月期に6500億円を見込む売上高は、30年に1兆円に引き上げる目標だ。

巨大な棚からモノを取り出す立体自動倉庫も、宅配物を搬送先ごとに仕分けるシステムも、空港で手荷物を安心して預けることも。今やダイフクなしには、世界中の様々なビジネスが回らなくなっている。

ダイフクは、いかにしてこうした地位を確立したのか。

マテハン市場は、業界ごとに搬送装置が成熟しており、得意分野に特化した会社が多い。ライバルとなる世界の強豪を見渡しても、独シェーファーは工場内の自動化・効率化に強みを持ち、米デマティックは自動倉庫などの米アマゾン・ドット・コム向け設備で伸びてきた。

一方、ダイフクは手広くマテハンビジネスを手掛けてきた。

1937年、製鉄用の鍛圧機械を手掛ける企業として創業。社名は、当時工場のあった大阪市と京都府福知山市の頭文字に由来する。

その後、物流センターや製造業の工場で使われる搬送機器に事業を拡大。電子商取引(EC)の普及で物流の重要性が高まるにつれ、飛躍的に業績を伸ばしてきた。

国産初のボウリングマシンで玉やピンを運び、今では自動搬送式納骨堂の骨つぼまで、ありとあらゆるモノを運ぶ技術を磨いてきた。主要顧客も物流・倉庫業や、自動車メーカー、空港とさまざまだ。

ある事業で磨いた技術を、他の事業にも横展開する「数珠つなぎ」。それを当たり前に行って成長してきたことが、ダイフクの強みとなっている。

(日経ビジネス 福留瑚都、齋藤徹)

[日経ビジネス電子版 2025年8月18日の記事を再構成]

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