写真=ロイター

「投資の神様」「オマハの賢人」ともいわれ、多くの人から支持される米著名投資家ウォーレン・バフェット氏。日本の総合商社5社への投資が判明し、脚光を浴びてはや5年。米投資会社バークシャー・ハザウェイの最高経営責任者(CEO)として最後となった年次株主総会で語ったのは商社5社への称賛だった。

伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事――。過去に何度も「不要論」が巻き起こり、そのたびに進化して乗り越えてきた。コングロマリット(複合経営)ゆえに何をやっているのか分かりにくいとも言われ続ける。なぜ、バフェット氏はそこまでほれ込むのか。バフェット氏の発言や投資動向、関係者への取材から浮かび上がった強みを検証していく。

「これほどまで言うのか」と参加者

米ネブラスカ州オマハのコンベンションセンター兼アリーナの「CHIヘルス・センター・オマハ」。人口約50万人のこの都市に5月上旬、世界各国から多くの人が詰めかけた。目的はバフェット氏率いるバークシャーの年次株主総会だ。

「今後50年間、売却することなど考えないだろう」

例年、株主からの質問を受け付けるバフェット氏。そのセッションの中で、バークシャーが保有する商社5社について言及した。株主総会に現地参加したびとうファイナンシャルサービス(東京・港)の尾藤峰男代表は「これほどまで言うのか、と思い入れの強さを感じた」と明かす。

将来有望な企業を見いだして投資し、長期保有するのがバフェット流の投資スタイル。投資の神様はなぜ商社株に投資したのだろうか。

バフェット氏の発言や「株主への手紙」を踏まえると、商社株を見初めたきっかけは約6年前に遡る。2000〜3000社の日本企業が掲載されたハンドブックのページをめくる中で、「ばかばかしいほど安い価格で売られていた」(バフェット氏)という商社5社が目に付いた。バークシャーは2019年7月から商社5社への投資をスタート。20年8月には、各社の株式の約5%を保有していると発表した。以降、商社株は世界から注目されるようになり、株価も上昇した。

その後もバークシャーは各社の株式を買い増した。関東財務局に25年3月に提出された大量保有報告書の変更報告書では、自己株を含めて算定した保有比率は三井物産が9.82%、三菱商事が 9.67%、丸紅が 9.30%、住友商事が 9.29%、伊藤忠商事が 8.53%。若干数字が異なるものの、ある商社幹部は「自己株を除く議決権ベースでは 5 社とも ほぼ同じ水準だ」と説明する。

またバークシャーは各社の保有比率を10%未満に抑えるとしていたが、25年2月の株主への手紙ではこの上限を緩和したと明らかにした。その上で「今後、5社の株式保有比率は徐々に増加するだろう」と意欲を見せた。実際、25年8月28日には三菱商事の保有比率が10%を超えたことが分かった。

バークシャーも商社もコングロマリット

そこまで商社株にほれ込む理由は何か。総合商社は資源・エネルギーから自動車、小売り、アパレル、食料まで幅広い事業を手掛ける。「理解できるビジネスにしか投資しない」というバフェット氏の投資哲学だが、バークシャーも米コカ・コーラや米石油・ガス大手のシェブロン、米カジュアルアパレルのフルーツオブザルームなどに投資。双方ともにコングロマリットで成長していることが挙げられるだろう。

商社幹部の一人は「バークシャー側からは『今まで通り、やりたいように経営してほしい。我々は満足している』としか言われない」と明かす。総合商社の場合、特定の業種・国のビジネスが振るわなくても他でカバーできる。商社株を保有すること自体がリスク分散につながる。また5社の中でも得手不得手があり、「バークシャーは商社5社を買えば、全ての事業をポートフォリオできると考えているようだ」(商社幹部)。

さらに商社5社はいずれも年間配当額を維持、または増額する累進配当を導入する。三菱商事が最大1兆円の自社株買いを打ち出すなど、株主還元策も拡充してきた。バフェット氏も「5社はいずれも適切なタイミングで増配し、合理的な判断で自社株買いを実施している。経営陣の報酬も米国企業と比べて控えめだ」と歓迎する。

楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジストは「商社についてはビジネスモデルなどを評価しているのだろう。『バフェット氏は長期投資だ』といわれているが、実は、ダメだと思ったらぱっと売る時もある」と見る。

バフェット氏は、今回の株主総会で「グレッグ(・アベル副会長)がCEOに就任すべき時が来たと考えている」と世代交代を発表した。時期は26年1月。バフェット氏は取締役会会長として残る。アベル氏はこれまで商社5社とのやり取りを担当してきた。総会でも「我々は、彼らとグローバルに大きなことを成し遂げたいと願っている」と発言しており、新時代の幕が開けても、バークシャーと商社の"蜜月関係"はまだまだ続きそうだ。

(日経ビジネス 高城裕太)

[日経ビジネス電子版 2025年8月29日の記事を再構成]

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