
13日に閉幕する大阪・関西万博では交通混雑を抑制するために、交通需要マネジメント(TDM)が行われ、協力企業は在宅勤務や時差出勤などで人流を抑制している。こうした働き方改革が万博終了後も定着するのか、取材した。
閉幕まで2週間を切った9月末、通勤ラッシュのピークとされる平日午前8時過ぎの大阪メトロ本町駅を訪れた。万博会場のある夢洲(ゆめしま)駅に向かう中央線のほか、大動脈の御堂筋線、四つ橋線が乗り入れる。駅構内は乗り換え順路が一方通行となり、警備員が拡声器を使って案内していた。中央線のホームでは、人が滞留している様子もない。列車も座席はほぼ埋まっていたが、立つスペースは夢洲駅まで余裕があった。中央線は万博開幕を前に、4月から運行間隔を最短で2分30秒間隔にする増便をしており、その効果も表れた。
万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)や大阪府、大阪市、経済界などは鉄道や周辺道路の混雑緩和を図るために、会期中に混雑具合に応じて段階的にTDMを実施してきた。企業の協力のほかに、駅などの広告で周知。万博来場者が増えた9月からはテレビCMを放映して強く呼びかけた。

効果は一定、出ている。TDM取り組み前の5月26~30日(いずれも平日午前8時台)、中央線弁天町―朝潮橋間の混雑率は平均120%だった。一方、TDMに取り組んだ6月2~30日は平均106%、8月18~29日は平均101%まで下がった。
協力企業は9月10日時点で3669事業所あり、住宅設備大手のLIXIL(東京都)の中央線コスモスクエア駅(住之江区)近くの事業所もその一つ。同事業所に勤務する約540人のうち、7割を超える400人ほどが在宅勤務や時差出勤、オンライン会議などを行ったという。また、取引先など社外の関係者にもTDMの取り組みを説明し、打ち合わせをオンラインで行ったり、面会場所を相手方に近い場所に変えたりした。社内では「中央線の便数が増えていることもあり、朝の夢洲方面行き電車の混雑具合は開幕前とあまり変わらない」という声があるという。
さらに、同社は午前5時~午後10時の間で、自由に出退勤時間を決めることができるフレキシブルタイムを導入。また、休日も職場で調整して各自で決めることができる。
テレワークの活用で働く場所も柔軟に選択できる。部署によっては離島や地方都市での勤務も可能で、地方勤務を希望する人もいる。同社は元々、新型コロナウイルス感染拡大前から、在宅でも勤務できるようにテレワークの環境整備などに取り組んでいた。
同社によると、顧客のニーズも多様化しており、子育てや親の介護をしながら働く従業員のアイデアが新たな住宅設備や建材の新商品開発につながることもある。こうした事情が柔軟な働き方を進めるきっかけとなったという。
府市も在宅勤務や時差出勤を推進した。中央線コスモスクエア駅近くには、府咲洲(さきしま)庁舎やアジア太平洋トレードセンター(ATC)に庁舎がある。多くの来場者が訪れた万博会期末の10月はこれらの庁舎で働く職員の7割が、それぞれの本庁舎で勤務する職員も3割が取り組んだ。
10月には、育児などと仕事の両立を支援する改正育児・介護休業法が完全施行され、企業には従業員が柔軟な働き方を選べるようにすることが義務付けられた。吉村洋文知事は「TDM期間中に業務が回っているのか検証し、今回の取り組みが次の働き方改革にもつながればいいと思う」と話している。【長沼辰哉】
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