三井不動産レジデンシャルが手掛ける総戸数1002戸の三田ガーデンヒルズ(東京・港)では7月から、ロボットが荷物を運搬するポーターサービスを本格導入している。配送ロボットは居住者のスマートフォンアプリによる呼び出しに応じ、エントランスから各住戸の玄関前の間を移動する。ロボットが自ら判断してエレベーターを使い、コンシェルジュの手を借りることなく高層階へも荷物を運ぶ。

この屋内自動配送ロボットを開発したのは川崎重工業だ。名前は「FORRO(フォーロ)」。高セキュリティー環境下での運用を目指して21年から研究開発を重ねてきた。施設に通信システムを組み込むことで、ロボットが自らセキュリティーゲートやエレベーターと通信、通過する。データ連携の際にゲートやエレベーターのメーカーは問わないという。

川崎重工でフォーロのマーケティングを担当する近未来モビリティ総括部の太田健人氏は、フォーロは「ヒトはヒトにしかできないことを」というコンセプトのもとで開発したと説明する。足回りには同社がバイク事業で培ってきた安定走行の技術が盛り込まれており「転倒することはまずない」と自信を見せる。混雑状況に応じてエレベーターの乗降タイミングを自動調整できるなど、人間との共生というソフト面の充実にも力を注いだ。

病院で自動配送ロボを24時間活用

フォーロ活躍の場はマンションにとどまらない。病院などの医療現場でも導入が始まっている。慶応義塾大学病院(東京・新宿)は、25年4月よりフォーロを24時間体制で運用し始めた。運ぶのは、医薬品や検体だ。

同病院はこれまで、医薬品や患者から採取した検体の院内配送を全て人手が担っていた。その一部をフォーロが担うようになってから人手が少ない夜間や休日でも、検体を時間通りに届けることが可能になった。同病院に勤める看護師や検査技師の負担軽減に貢献しているという。

副病院長の陣崎雅弘氏は、導入理由について「労働人口が減少する中で、ロボットの活用は必須になる。導入は早いに越したことがない」と説明する。今後もフォーロをはじめとするロボットを積極活用する考えだ。川崎重工によると、医療施設における業務効率化を目的とする厚生労働省の補助金を追い風とした問い合わせも順調に増えているという。

配達員を悩ます「タワマン地獄」

屋内用の自動配送ロボットは現在、ファミリーレストランなどで配膳ロボットとして料理提供や下げ膳に活用されている。宅配事業者は集合住宅の入り口から各住戸までの「ラストワンマイル配送」で、こうしたロボットが活用できないかと期待を寄せる。

宅配事業者の目下の課題はタワーマンションでの配送だ。敷地内に複数の棟が立つ場合も多く、配達員は届け先の住戸を探すのに時間がかかる。加えて、セキュリティーやルールの厳しさから、配達業務が非効率になりがちだ。日鉄興和不動産(東京・港)の調査によると、たった1件の配達に30分かかるケースも少なくないという。タワマンでの宅配業務が配達員にとって「地獄」と称されるゆえんだ。

この環境は厳しさを増す可能性がある。足元でタワマンの供給戸数が増えているのだ。不動産経済研究所(東京・新宿)の調査によると、20階建て以上のマンションの完成予定戸数はここしばらく1 万〜1万5000戸前後で推移しており、26年には2万4746戸と急増する見込みだ。

だからこそ、宅配事業者は自動配送ロボの導入に力を入れる。実際、タワマン内で自動配送ロボットを活用しようとする動きは拡大中だ。ヤマト運輸は8月から首都圏のタワマンや大規模マンションで、韓国のロボット機器メーカーWATT製の自動配送ロボットを用いた配送実験を開始。今後も実証を重ねて26年中の実用化を目指すという。

大規模なマンションの宅配で運用するには課題がある。例えば、オートロック式ドアやエレベーターが多い建築物内では、人手を借りずにロボットが目的地にたどり着くのが難しい。高価な物品を運んでいる場合は、第三者による持ち去りを防ぐセキュリティーの導入も不可欠だ。

フォーロはタワマンにおける宅配便の配送にも十分対応できるという。例えば、セキュリティについては受取人が配達物を取り出す際にICチップが埋め込まれたカードや鍵などをかざし、ロボットのロックを外すことで第三者による持ち去りを防ぐ。ロボット上部に設置したカメラを回転させて周囲を見回し、配送中も周囲の警戒を怠らない。これにより、建物内での子供の急な飛び出しも素早く感知して停止、接触を防げる。

混雑状況などを判断しながらエレベーターを待つ(画像の一部を日経ビジネス編集部で加工)

海外展開も見込むフォーロ

フォーロは今後、海外展開も見込む。特に中国製品を導入しづらい台湾からの注目度が高いという。ヒトに代替する作業を増やすことで人手不足を解消し、現場で働く人員がコア業務に集中できる環境を整える。それがフォーロなど自動配送ロボットに求められる使命となっている。

(日経ビジネス 福留瑚都)

[日経ビジネス電子版 2025年9月22日の記事を再構成]

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