KDDIは28日、堺市に開設するデータセンター(DC)について、2026年1月に稼働を始めると発表した。クラウドサービスを提供し小売店の業務効率化へのAI(人工知能)技術活用なども見据える。本業の携帯電話市場が踊り場を迎える中、DC事業の売上高を30年度までに24年度の1.5倍に増やし成長のけん引役に据える戦略を掲げる。

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28日、KDDIが東京都内で開いた法人向け技術を紹介するイベントに登壇した松田浩路社長は「シャープから工場を購入したことで(開設までの)時間を短縮でき、AI時代に間に合わせることができた」と話した。

KDDIは4月、堺のシャープ工場跡地の建物と土地を100億円で取得し、DCへの転用を進めている。4階建てで敷地面積は3万3000平方メートル、延べ床面積は5万7000平方メートルに上る。DCには米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)「GB200」を導入する。

KDDIが26年1月に稼働を始める予定の堺市のデータセンター(イメージ)

堺のDCは再生可能エネルギー由来の電力を100%利用し、環境負荷も低減する。最新の水冷技術を用いて電力使用量を抑え、再エネ由来の電力のみでも使用できるようにした。

堺のDCを使って企業や研究機関向けのクラウドサービスを始める。顧客はサーバーを1台単位から必要な分だけ利用できる。自動運転システムや新たな生成AIの開発などの利用例を想定している。26年4月から受け付けを始める。

KDDIはDC事業を通信以外の分野の成長けん引役と位置付ける。すでに「テレハウス」というブランド名で世界10カ国の45拠点以上で展開している。DC売上高は、25年3月期の1300億円を31年3月期までに2000億円まで引き上げる目標を掲げる。

データセンター、検索、ローソン活用がAIの柱

KDDIのAI戦略は堺のDCを柱に、ネットメディアなどと提携したAI検索や三菱商事と共同経営するローソンで実証・実装するのが強みだ。通信他社と差異化した軸でAIを攻める。

松田氏は同日、グーグル・クラウド・ジャパン(東京・渋谷)と提携するメディア企業などのコンテンツを検索する国内向けAIサービスを26年春にも始めることも明らかにした。利用を促すため当初は無料で提供するという。

KDDIはグーグル・クラウド・ジャパンと提携しており、堺市のDCにはグーグルが手掛ける生成AIの運用モデル「Gemini(ジェミニ)」を組み込む。

KDDIが開いたイベントに登壇した松田浩路社長(28日、東京都港区)

KDDIはニュースのポータルサイトの運営経験を持ち、国内のメディアと協業した実績がある。松田氏は「プロバイダー(供給者)に寄り添い、貴重なコンテンツを顧客に届けるのは携帯電話の黎明(れいめい)期からの使命だ」と語った。

人手不足で店舗運営の効率化が待ったなしの小売業界では、KDDIがローソンで仕掛けるAIなどのデジタルトランスフォーメーション(DX)施策への関心が高い。

28日からローソンの数店舗で、AIを活用して従業員の作業を支援するスマートグラス(眼鏡型端末)の実証を始めた。グラスにカメラやマイク、スピーカーを搭載しており、作業の内容を目の前に表示する。食品調理などの業務マニュアルに沿って音声でAIと対話しながら手順を確認できる。調理技術を習得する人材の育成にかかる時間を減らせるとみる。

映像や音声を通じて手順を指示するスマートグラスをかけてカツ丼を作るデモの様子。左の画面は視界のイメージ(27日、東京都港区)

フィジカルAIにも力

ロボットや機械をAIが自律的に制御する「フィジカルAI」も目玉だ。11月から「ローソン S KDDI高輪本社店」(東京・港)で、AIとロボを組み合わせた技術の実証を始める。

店内を巡回し画像解析AIで陳列棚の欠品を検知するロボや、商品をつかんで並べられるアームを搭載した自律走行ロボを使い、品出し業務の自動化が可能かを検証する。ローソンで使う様々な技術のデータ処理について、将来的には堺DCのAI基盤を活用する考えだ。

KDDIが手掛ける手づかみでの作業が可能なロボット=手前=と売り場で欠品を検知するロボット=奥=(27日、東京都港区)
KDDIが手掛けるアームで商品を陳列するロボット(27日、東京都港区)

他の通信大手もDC事業を次世代の収益源としている。ソフトバンクもシャープの堺の土地や建物などを約1000億円で取得し26年の稼働開始を目指す。自律的に作業する最先端の「AIエージェント」の運用拠点などに使う。NTTはNTTデータグループの完全子会社化を通じDC事業の世界展開を加速する段階に入った。

KDDIの松田氏は28日、「未来をつくっていくため今何が必要かという時に、AI抜きには語れない」と強調した。課題となっている通信以外の種をうまく育てられるか。堺のDCが稼働する26年は勝負の年になる。

(山本貴大)

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BUSINESS DAILY by NIKKEI

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