嘉兵衛本舗が立ち上げる新ブランド「茶ノ吉」の商品群(29日、奈良市)

奈良県大淀町で約200年前から続く製茶農家「嘉兵衛本舗」が11月、新ブランド「茶ノ吉(ちゃのきち)」を立ち上げる。高齢のため代表の森本正次氏(78)が娘3人へ事業継承するのを機に、紅茶などの新商品を加えて新たな顧客開拓に乗り出す。工芸品を中心に生活雑貨を扱う中川政七商店(奈良市)がブランドの立ち上げを支援した。

11月5日に発売するのは茶ノ吉の「釜炒り(かまいり)煎茶」(20グラム入り、価格は1998円)や「和紅茶」(同、同)など3商品。自ら栽培した茶葉を使ってそれぞれの商品に加工した。嘉兵衛本舗のオンラインショップのほか、中川政七商店のオンラインショップと一部の直営店で扱う。

嘉兵衛本舗の代表である森本氏㊨らは新ブランド「茶ノ吉」の立ち上げを発表した(29日、奈良県庁)

今後、季節にあわせて商品を追加していく。12月3日には「白茶」、2026年3月には「越冬番茶」、同年5月には「煎茶」を発売する。

江戸時代から続く嘉兵衛本舗は森本氏が個人事業として営んでいる。茶葉を天日干しする伝統製法でつくる「天日干し番茶」が主力商品で、地元の道の駅や百貨店などで扱っている。高齢や病気で事業を続けるのが難しくなったため、約10年前から3人の娘が手伝い始めた。奈良県の中小企業支援事業を機に、中川政七商店によるコンサルティングを受け、事業継承や新ブランドの立ち上げに至った。

29日に奈良県庁で開催した記者発表会で、森本氏から長女である上野知佳氏ら3姉妹への事業継承式が行われた。森本氏は「事業を続けられなくなったらお客様に申し訳ないと思っていた」と継承できたことを喜んだ。上野氏は「おいしいと言ってもらえるお客様に届け続けたい」と抱負を語った。

茶づくりで使う熊手を使って森本氏㊨から長女の上野氏㊥らへの事業継承式を行った(29日、奈良県庁)

嘉兵衛本舗は従来の主力商品である天日干し番茶も継続して扱う。新ブランドの商品については県内外で新たな販路を開拓する。27年4月をめどに法人化し、上野氏が社長に就任する予定だ。現在の年商は約4000万円だが、新ブランドの立ち上げで数年内には6000万円に引き上げる。今後は周辺の耕作放棄地で茶栽培を始めるなどして生産能力を高め、将来は年商1億円を目指したい考えだ。

国内の茶業界では農家の減少が進んでいる。嘉兵衛本舗の地元である奈良県大淀町でも以前は約300軒あったとされる茶生産者が現在は5軒にまで減った。世界的な「マッチャ」人気を受け、規模の大きな経営体は抹茶の原料となるてん茶へ生産をシフトしているが、従来の茶葉を扱う小規模農家は厳しい経営環境が続く。農家の高齢化に加え、作業が一番茶の時期(4〜5月)に集中することも人手確保を困難にしている。

このため嘉兵衛本舗は新ブランドの立ち上げに際し、煎茶や紅茶、白茶など収穫・製茶時期を年間で分散させるように商品設計した。労働の平準化と持続可能な働き方を目指す。

嘉兵衛本舗の事業を継承する上野氏㊧ら森本氏の3姉妹

中川政七商店はビジョンとして「日本の工芸を元気にする!」を掲げている。自ら工芸品の製造小売事業を手掛けるだけでなく、地場の中小企業に対する経営コンサルティングを実施しており、今までに60社以上を支援してきた。

(奈良支局長 古田博士) 

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