南風泊市場の初競りで大きさごとに仕分けされるトラフグ=山口県下関市で2025年1月4日午前3時10分、橋本勝利撮影

 山口県などに訪日外国人客を呼び込もうと、山口フィナンシャルグループ(FG)が旅行会社などと連携して観光コンテンツ作りに乗り出した。山口は訪日客の流入が少なく、人口減少で衰退が懸念されている。歴史や自然、文化に根ざした質の高い観光体験を提供することで、欧米を中心とした富裕層の心をつかみ、地域の活性化につなげる狙いだ。

 山口FGが用意した観光コンテンツは、下関、長門、山口、岩国、北九州の5地域。下関では「フグ」をテーマに、プロの目利きの案内で国内唯一のフグ専門卸売市場「南風泊(はえどまり)市場」の競りを見学。地元の懐石料理や日本酒のブレンディングを体験してもらう。長門では400年の歴史を持つ「萩焼」の窯元で陶工の話を聞き、名湯の宿に泊まる。1、2泊のコースが多く、価格は数万円から100万円を超えるプランまであり、10月から販売を始めた。

 観光庁などの調査によると、アジアや欧米・オーストラリアからの訪日客(2024年)は、福岡県が597万人(19年比72%増)、広島県が121万人(50%増)。これに対し、山口は10万人(9%増)にとどまる。

唐戸市場近くの海沿いの遊歩道に置かれたフグのオブジェ=山口県下関市で2025年10月9日午後7時40分、土屋渓撮影

 欧米豪に限ると福岡と広島が60%以上増えた一方、山口は12%減の2万人弱に落ち込んでいる。東京や関西方面から来る人の多くは広島で引き返すか、山口や北九州を素通りして福岡市に向かうケースが多いという。今回の旅行プランでは滞在日数が長く、1人当たりの消費額が大きいとされる欧米からの客を特に増やしたい考えだ。

 平日夜、下関市内の繁華街を歩くと、欧米人はおろか日本人の観光客もあまり見かけない。

人影がまばらな唐戸市場近くの繁華街=山口県下関市で2025年10月9日午後8時13分、土屋渓撮影

 観光名所の唐戸市場近くの関門海峡を望む飲食店で働く女性は「外国人はベトナムやカンボジア、台湾の人を見かけるくらい。欧米から大勢の人が来てくれたらもっと活気が出るのに」と話す。店内は閑散とし、週末の夜にならないと客は集まらないという。

 天然のトラフグが冬場に旬を迎える南風泊市場で働く男性は「漁師が減り、水揚げ量も減っている」と語り、訪日客の見学コースに選ばれたことに驚いた様子だった。

 政府は30年に国内全体で訪日客6000万人、消費額15兆円の目標を掲げている。

記者会見で手を合わせる(右から)エクスペリサスの丸山智義最高経営責任者(CEO)、ドリームインキュベータの宮内慎執行役員、山口フィナンシャルグループの村田直輝執行役員、YMFG ZONEプラニングの蔵重嘉伸社長=山口県下関市で2025年10月9日、土屋渓撮影

 今回の戦略を練るコンサルティング会社、ドリームインキュベータ(東京)の宮内慎執行役員は10月上旬に山口FG本店であった記者会見で「非常に大きなポテンシャルがある。富裕層に刺さる体験をどう作り出せるか。販売チャンネルも重要」と指摘。多くの訪日客を迎えるには移動手段や飲食、宿泊といったサービスを整える必要があるとして、山口FGに対しては投融資や地元企業の紹介といった地域密着の金融・仲介機能を期待した。

 旅行会社のエクスペリサス(東京)は、世界約8000社の富裕層向け旅行会社を通じて、観光コンテンツを売り込む。丸山智義最高経営責任者(CEO)は「日本を何度も訪れる人は、東京や京都から確実に地方に行くようになる」と語り、今後もコンテンツを増やしていくという。山口や北九州の存在が欧米の富裕層にうまく定着するとしても数年はかかるとみられ、息の長い取り組みが必要になりそうだ。【土屋渓】

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