農産物や畜産物の値段が上がっています。農家も消費者という一面があり、食品が高くなったことを私も含めて皆実感しています。

最近、注目を集めているのがお米です。政府備蓄米の放出でいったん落ち着くかに見えましたが、新米が出回り始めてから再び高値基調が続いています。先行きを見通すのは簡単ではありません。

ニュースで米価がクローズアップされるのを見ていると、日本人にとってお米がいかに大切な農産物であるかに改めて気づかされます。だからこそ急に値段が上がってしまったことにより、消費者が米離れを起こすことを心配しています。

一方で農家の側からすると、過去の米価が安すぎたという現実があります。低米価が長年続いた影響で、農家の数が減っています。生産者にとって必要なのは、今後も稲作を続けることができる適正価格です。

コストの上昇も多くの人に知ってもらいたい点です。ロシアのウクライナ侵略が始まって以降、肥料や農薬、燃料の価格が上がりました。稲作だけでなく、農業全体が直面している問題です。飼料価格の高騰は畜産を圧迫しています。

経費を抑える努力はもちろん続けています。例えば木材の製造で生じる端材を、重油に代わる低コストの燃料として活用しているJAがあります。森林資源が豊かな地域の特色を生かした取り組みです。

全国農業協同組合中央会 山野徹会長

流通過程で発生するコストを減らすための試みにも力を入れています。トラック輸送に代わり、専用列車を使って米を大量に遠い場所まで運ぶ便を設けたのはその一つです。生産段階と流通段階の連携はこれからも重要なテーマです。

ただし全体として見れば、農家を含めた現場の努力だけで資材の高騰をカバーするのは困難です。持続可能な食料生産を実現するのは長期的に難しくなります。

食料生産を後押しする法整備は進んでいます。食料・農業・農村基本法が制定から四半世紀を経て2024年に改正されました。合理的な費用を考慮した農産物の価格形成を求めたのがポイントです。

25年には食料システム法も成立しました。食料品の売買価格を決める際、必要なコストを考慮することを業者間で協議することを定めています。生産者が農業を続け、消費者の皆様に安定して食料をお届けし続けることを目指しています。

JAグループは食料安全保障の重要性を発信し、農業の実態を消費者の皆様にご理解いただけるよう努めています。そのために掲げているのが、国内で消費する食べものをできるだけ国内で生産する「国消国産」の考え方です。

「国消国産」を実現するためには、関係者が幅広く参加する取り組みが必要です。国産農産物の生産・流通・消費を通じて大切にすべきことは何でしょうか。皆様のたくさんのアイデアをお待ちしています。

全国農業協同組合中央会・山野徹会長の課題に対するアイデアを募集します。投稿はこちら(https://esf.nikkei.co.jp/future20251104/)から。

編集委員から

日本の食料事情が薄氷の上にあることを浮き彫りにする出来事が相次いでいます。ウクライナ戦争のあおりで小麦など輸入に頼る穀物が値上がりし、記録的な猛暑でコメ不足と米価の高騰が起きました。混乱はいまなお続いています。

食品価格の上昇は家計にとっては重い負担です。ただし一方で考えるべきなのは、農業の持続可能性です。「安ければ安いほどいい」というニーズに応える体力は、日本の農業にはもはやありません。

令和の米騒動はこの先に待つもっと大きな混乱の予兆かもしれません。稲作は農業の中でとりわけ高齢化が深刻で、後継者を確保できないままで引退が進んでいます。自助努力による大規模化でカバーできると考えるのは楽観的です。

農政の再構築が求められています。食料生産を支える必要性への国民の理解が欠かせません。生産性の向上に役立ち、しかも食料の安定供給を可能にするような政策を正面から考えるべきときでしょう。(編集委員 吉田忠則)

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今回の課題は「国産農産物の生産・流通・消費を通じて大切にすべきことは?」です。420字程度にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは11日(火)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、25日(火)付の未来面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/future/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。

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