世界の半導体需要が2026年に急拡大するとの見方が強まっている。半導体製造装置大手が7〜9月期決算を発表し、各社のトップが強気の見通しを示した。人工知能(AI)向けデータセンター投資の過熱への懸念もあるなか、装置業界は需要の急拡大期を意味する「スーパーサイクル」に入るとの声が出ている。

製造装置大手の日米欧9社の純利益は前年同期比21%増の74億ドル(約1兆1400億円)となり、6四半期連続で増益だった。8社が増収となり、主にデータセンターで使われるAI半導体の製造に必要な最先端装置を手掛ける企業が好調だった。

顧客となる半導体メーカーの投資計画や受注状況を踏まえ、装置各社では前向きな見通しが広がっている。国内最大手の東京エレクトロンの河合利樹社長は、10月末の決算説明会で26年の世界の前工程向け装置市場が「過去最高になるだろう」と明言した。

AIサーバーでのデータ処理に欠かせない先端メモリ半導体である「広帯域メモリー(HBM)」の需要が逼迫し、半導体メーカーが増産に動いている。装置への引き合いも強く、河合社長は「長期的なスーパーサイクルに入る可能性もある」と話した。

半導体検査装置大手のアドバンテストは、中期経営計画の最終年度である来期(27年3月期)までの目標を上方修正した。3年間の平均売上高を最大9300億円と最大2750億円引き上げた。米エヌビディアを主要顧客に抱え、高性能な検査装置の販売が伸びるとみる。

世界最大手のオランダASMLホールディングの市場見通しが楽観的になったことも大きい。ASMLはAI半導体の製造に必要な極紫外線(EUV)露光装置の供給を独占し、その動向がAI需要の先行指標として注目されている。

クリストフ・フーケ最高経営責任者(CEO)は「26年の売上高が25年を下回ることはない」とした。26年の成長を「確約できない」としていた3カ月前から転じた。

好況の背景にあるのは、米テック大手による大型投資だ。生成AI市場での覇権を巡ってデータセンターの新設計画が相次ぎ、各社がAI半導体の確保を急いでいる。

半導体は好不況を3〜5年で繰り返す「シリコンサイクル」を超えて、巨大なAI需要が市場全体をけん引して伸びる構図が続く。装置ではAIの演算を担うロジック半導体向けに加え、メモリー向けにも需要が波及している。

26年は世界で半導体工場の新設が増え、年後半に装置納入が本格化する。洗浄装置を手掛けるSCREENホールディングスの後藤正人社長は「メモリーのスーパーサイクルが効いてくるのは来年後半」と期待を示した。

株価はすでに26年以降の好況を織り込んで上昇している。アドバンテストは決算発表後に株価が2割超と急騰し、時価総額が15兆円に達した。10月末にかけて、東京エレクトロンなど装置関連銘柄が軒並み上昇した。

短期的な過熱感から、市場では「AIバブル」との懸念もある。岩井コスモ証券の斎藤和嘉シニアアナリストは「テック大手同士の競争で業績が悪化すれば投資計画が一気に減速する可能性はある。対中規制の影響度などで装置メーカーのなかでも勝敗が分かれそうだ」と指摘する。

米政府は9月に対中輸出規制の強化で、装置輸出を制限する中国企業のリストを拡大した。中国は最大の装置輸入国で、7〜9月期売上高に占める中国比率は9社平均で37%だった。対中規制を見込んだ駆け込み需要から一時反動減が出ていたが、依存度が高い状態が続く。

足元ではスマートフォンやパソコン向け、電気自動車(EV)向けパワー半導体の回復は依然として鈍い。先端半導体ではない成熟品向けの需要低迷もあり、10〜12月の売上高予想(市場予想含む)は9社のうち5社が減収を見込み、25年下期は端境期となりそうだ。

PER(株価収益率)はアドバンテストが54倍、東京エレクトロンが31倍と高水準で推移する。市場の期待が集中するなか、それに応じた成長が実現できるかが問われる。

(薬文江)

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