
中部3県に本店を置く地銀6行の2025年4〜9月期決算が14日に出そろった。最終的な利益を示す単体の税引き利益は全行が前年同期から増えた。住宅ローンをはじめとした貸出金が伸びた上、全国的に見て低いとされてきた「ナゴヤ金利」も政策金利の引き上げを背景に上昇し、利ざやが改善した。好業績を背景に、株主還元を拡充する動きも広がる。

貸出金や有価証券の利息といった資金利益はあいち銀行を除く5行で増益となった。背景にあるのは「金利ある世界」の復活だ。貸出金利回りが6行全てで改善し、収益改善の要因となっている。
マイナス金利解除で風向き変わる
中部地銀は伝統的に、全国的に見て金利が低い「ナゴヤ金利」で知られる。ただ、マイナス金利が解除された24年以降は全国の銀行金利と歩調を合わせる形で上昇している。日銀名古屋支店が公表している中部地銀の貸出約定平均金利(ストックベース)は7月、16年5月以来となる1%の大台を回復した。

利ざやの改善に加えて貸し出し自体も伸びている。9月末時点での貸出金残高は全行で前年同期から伸びた。けん引したのが住宅ローンといった個人向け貸し出しだ。住宅着工件数は減少傾向にあるが、資材価格の高騰で住宅自体の単価が上昇しており「1件当たりの金額が増えている」(三十三フィナンシャルグループの道広剛太郎社長)。
半面、中小企業などへの貸し出しはやや伸び悩んだ。米トランプ政権の相互関税や世界景気の不透明感が背景にあるとみられる。大垣共立銀行の中小企業向けの貸出残高は前年9月末から減った。林敬治頭取は「先行き不安から設備投資を先延ばしする動きがあった」と指摘する。
運用改善も収益押し上げ
株高や金利上昇を受けた債券の利息収入の増加も収益を押し上げた。名古屋銀行の資金利益は22%増の248億円となった。藤原一朗頭取は「有価証券の利息収入の方が貸出金の利息収入より貢献が大きかった」と述べた。
好調な市場環境を受け、評価損益を改善するためのポートフォリオの組み替えも加速した。百五銀行は「低利回りの債券を売却しポートフォリオの改善を進めた」(杉浦雅和頭取)。結果として国債などで79億円の損失を出したが、株高に伴う株式売却益の伸びで一定程度補った。
26年3月期の通期業績予想も百五銀行など4行が11月に入って上方修正した。十六フィナンシャルグループの池田直樹社長は「日銀の利上げは個人的には12月とみているが、通期予想には織り込んでおらず保守的に見ている」と話す。
物言う株主には警戒感
増配や自社株買い、株主優待の拡充など株主還元を手厚くする動きも相次いだ。好調な業績が背景にあるが、アクティビスト(物言う株主)への警戒感も一部でにじむ。

増配したのが、あいち銀行を傘下にもつあいちフィナンシャルグループだ。10月に地方銀行を中心に投資するありあけキャピタル(東京・中央)が同社株の約5%を保有していることが明らかになった。
同社は11月10日に年間配当を従来予想から引き上げると発表した。あいちFGの伊藤行記社長は「(ファンドからの)具体的な要求はない。増配はありあけキャピタルとは関係なく、配当方針に基づいたものだ」と説明した。
大垣共立銀行も、著名投資家の井村俊哉氏が運用するファンドの運用会社が大株主となったことがわかっている。友好的に話し合いをしているとしながらも、「(増配の背景として)ファンドの存在を意識していないと言えばゼロではない」(林頭取)という。
中部地銀のPBR(株価純資産倍率)は、東証が目安とする1倍からは大きく離れている。金利上昇や株高を受けて事業環境は好調だが、どのように株主に還元し株高に結びつけていくかが問われる。
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