「りぼん」「ちゃお」などの少女漫画誌の巻末につけられたアクセサリーやファンシー雑貨の広告。そして、ほっぺちゃん。
手掛けていたのは1965年に山梨県で創業した「サン宝石」。だが、雑誌の発行部数減少とともに経営が悪化し、2021年には民事再生法の適用を申請した。現在は、みっとめるへん社が事業を引き継ぐ。そして、平成時代の文化を懐かしむ「平成レトロ」ブームにも乗る。
「『安カワ(安くてかわいい)』が(企業)文化としてありました。購買層は97%以上が女性。小学5年ごろからユーザーとなり、シンプルなものに魅力を感じ始める小6や中1で卒業していきます」
サン宝石時代から在籍し、今はみっとめるへん社サン宝石事業部部長の神崎仁美さんはそう述懐する。
「この表情が好き」
子どものお小遣いでやりくりして満足感が得られる低価格帯と、時期によって上下するが、カタログ1冊あたり1200点ほどを扱う商品数の多さが特長だ。
一定価格を購入すれば送料が無料となるため、クラスの友達と集まって通販カタログを眺め、ユーザーになるケースも多かった。
そして、売り上げを大きく伸ばしたきっかけは、10年に誕生したオリジナルキャラクター「ほっぺちゃん」の存在だ。
樹脂や粘土などで生クリームなどを表現する「スイーツデコ」が世間で流行したことを受け、サン宝石がスイーツデコのキャラクター化に取り組む中で生まれた。
シリコーン製による「ぷにぷに」とした感触と、手作りならではの一つ一つわずかに異なる表情が人気を集めた。
「最初に店舗で販売すると、みんながほっぺちゃんをめがけて『この色にしよう』『この表情が好き』と買いに来るようになり、これは面白い、と。カタログで扱うようになると大流行しました」
これを受けて事業規模はさらに拡大。直営店舗「ファンシーポケット」は50店舗弱、会社は250人、自社工場は500人ほどを抱えるまでになった。
「選択肢が多い時代」
しかし、その事業は時代とともに陰りが見えるようになる。
少子化に伴って雑誌の発行部数が年々減少したが、その変化に応じることができなかったためだ。
「カタログ通販を手放せない一方で、雑誌に代わる新規(ユーザーの)獲得媒体を見つけられませんでした。かつてのお客様が成長し、大人のユーザーが増えていく兆しもありましたが、すでに安くてかわいいものを購入できる選択肢が多くある時代に突入していた。他の選択肢との差別化もできていませんでした」
事業の縮小やリストラを進めたが軌道修正は追いつかず、21年に民事再生法適用の申請に至った。負債総額は21億7000万円に上った。
経営難がニュースで報じられると、予想以上の反響があった。交流サイト(SNS)で事業継続を願う声が次々と上がり、同社が実施したクラウドファンディングは目標の300万円を大幅に上回る1265万円に達した。集まったお金は、通販カタログ発送にかかる費用の一部に充てられたという。
ほっぺちゃん、もう一度
「クラウドファンディングでお客様の熱をすごく感じました。今は、サン宝石を守らなければいけないという使命感も感じています」
神崎さんは、そう力を込める。
民事再生後、新たな販売手法を模索する中で目をつけた一つが、ガチャガチャだった。
「通販では、くじやアソート商品といったアミューズメント性の高い商品が売れていました。この中のどれが届くかお楽しみ、というようなものです。ガチャガチャであれば、実店舗や店員を置かなくても再現できるだろうと思いました」と説明する。
狙い通り雑貨のアソートやほっぺちゃんの商品を入れたガチャガチャは消費者にハマり、人気商品になった。
23年末にはSNSでほっぺちゃんの製造過程を投稿すると「手作りだったんだ!」などのコメントとともに話題となり、取り扱い店舗も徐々に増えた。
「平成レトロ」で人気を集め、今では全国約600店舗の量販店などで商品が並び、ポップアップは年間60~70回ほど開催するまで成長した。
来年にはアニメ「ほっぺちゃん~サン王国と黒ほっぺ団の秘密~」の放送が決まっており、さらなる人気拡大にも期待がかかる。
「最近は『もう復活したの?』とよく言われますが、まだまだ。ほっぺちゃんがもっと身近な定番のキャラクターになれるよう、広げていきたい」
ほっぺちゃんを見つめてきた神崎さんの願いだ。【松山文音】
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