「クイックル 洗面ボウルクリーナー」の本体㊧と詰め替え用

花王が4月に発売した洗面ボウル用クリーナーが反響を呼んでいる。手を汚さずに泡立てから洗浄まで一度にできる手軽さが支持され、一時は出荷停止に追い込まれた。11月に供給を再開し、累計出荷は300万個を超えた。汚れが気になるのに掃除方法が定着していなかった洗面台の分野で、新しい市場を切り開いた。

「クイックル 洗面ボウルクリーナー」は、洗剤とスポンジが一体化した構造が特徴だ。洗面ボウルに押しつければ泡が出て、こすって流すだけで掃除が完結する。手を汚さずに使え、汚れにくくするコーティング剤も加えるなど手軽さと仕上がりの良さを両立した。

洗面台は水アカや歯磨き粉の残りが付きやすく、「気づけば汚れている」という人も多いようだ。同社が23年に20〜49歳の女性に実施した調査で洗面台の掃除について、使用する洗剤や用具は人によってさまざまで、思い思いの方法を実践していることがわかった。

洗面台の掃除、半数が「不満」

一方で洗面台掃除の満足度を5段階で聞いたところ、「あまり満足していない」「まったく満足していない」が合わせて47%に上った。具体的に聞くと「掃除方法がわからない」「道具の準備が面倒」といった不満が多かった。負担感が掃除の習慣化を妨げている実態が浮き彫りになった。

「準備いらずで手軽に使える」――。そんな生活者の視点を踏まえ、ヒントになったのがスティック型の靴磨きだ。スポンジとつや出し剤が一体になり、気になったときにすぐ使える仕組みで、その発想を今回の商品に生かした。

開発には約2年半をかけた。担当したFHC商品事業開発センターの成田行人氏は「スポンジを押し当てたときだけ適量の洗剤が出て、十分に泡立つバランスを見極めるのが難しかった」と振り返る。洗面ボウルに押し当てると内部の弁が開き泡が出る。この仕組みの精密な設計、スポンジの素材など細かな検証を重ねて完成度を高めた。

「クイックル 洗面ボウルクリーナー」の使用イメージ

4月に全国のドラッグストアなどで発売すると、「歯磨きついでに掃除できる」「朝の身支度と一緒に済ませられる」と、子育て中の母親や美容に特化したインフルエンサーらによるSNS投稿が一気に広がった。売れ行きは想定の10倍に達し、5月中旬には一時出荷停止に。生産が追いつかず安定供給に約半年を要したが、11月に出荷を再開した。

掃除に関心ない人に刺さる

ホームケア事業部の輿石恵シニアマーケターによると、当初の想定ターゲットは「洗面台を週1回以上掃除する層」だった。しかし発売後、新規性や使いやすさが広まると、「週1回も掃除していなかった層や20〜30代の若年層、男性にも受け入れられた」(輿石氏)ことで想定を超える需要が発生したという。

ライフスタイルの変化も追い風になった。新型コロナウイルス禍を経て衛生意識が高まり、手洗いの機会が増えた一方で、共働きや単身世帯では掃除の時間が限られる。「短時間で清潔を保ちたい」という価値観が強まり、花王はこうした社会の変化や生活者心理を見逃さなかった。

調査会社IMARCグループによると、日本の家庭用クリーナー市場は24年に約23億ドル(約3600億円)に達し、33年には約32億ドルまで拡大すると見込まれている。

クイックルブランドはもともとフローリング用ワイパーなど、掃除を手軽にする発想で成長してきた。日用品市場では各社が値上げを踏まえ付加価値を高めることに注力しており、暮らしの不満や負担を解消する提案力がより重要になっている。

輿石氏は「わざわざ掃除するのではなく、洗面台を使うついでに掃除ができる。無理なく洗面ボウルをきれいに保つ新しい習慣を根付かせたい」と意気込む。

(西山良太)

クイックル 洗面ボウルクリーナー 4月に発売した洗剤とスポンジ一体型の洗面台専用の掃除用品。手を汚さずに手軽に掃除ができる。本体100ミリリットル入りの参考価格は610円前後で、詰め替え用(500ミリリットル)もある。

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BUSINESS DAILY by NIKKEI

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