寄付金受領証明書の特大パネルの前で記念撮影する女性=山梨県富士吉田市新西原5の富士急ハイランドで2025年10月25日午後3時52分、野田樹撮影
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 自治体間の返礼品競争が過熱するふるさと納税。特産品を送るだけでなく、現地を知り足を運んでもらう工夫で、多くのリピーターを獲得している市が富士山のふもとにある。

 2024年度は全国上位の100億円超を集めた。寄付者の心をつかんだ「こだわり」とは。

富士急ハイランドに2000人集結

「寄付者です」のプレートを持って記念撮影する男性=山梨県富士吉田市新西原5の富士急ハイランドで2025年10月25日午後3時47分、野田樹撮影
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 10月下旬の週末、山梨県富士吉田市の遊園地「富士急ハイランド」の芝生広場は家族連れなどでにぎわっていた。

 この日集まったのは、市にふるさと納税をした約2000人。返礼品事業者や仲介サイトが出展するブースが並び、寄付金受領証明書の特大パネルの前で記念撮影できるコーナーも設けられた。

 市は24年から寄付者を対象に、市民も参加して交流を深めるイベントを開催している。2回目の参加という東京都日野市の介護支援専門員、山下彰信さん(53)は「富士吉田に足を運ぶ良い機会になっている。今後もふるさと納税を続けて関わりたい」と満足そうに語った。

 富士山の北麓(ほくろく)に位置する富士吉田市は、近年多くの外国人観光客でにぎわう。

 総務省によると、24年度のふるさと納税寄付額は全国13位の101億2042万円。19年度以降、寄付額上位の15自治体に名を連ねている。

返礼品だけじゃないこだわりとは?

返礼品事業者と打ち合わせをする山梨県富士吉田市参与の萩原美奈枝さん(左)=同市内で2025年10月10日午後2時57分、野田樹撮影
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 返礼品は約2000点。富士山の伏流水で羽毛を洗った布団や、伏流水で作った炭酸水が人気だが、牛肉やホタテといった特産品がある自治体に比べると派手さはない。

 代わりに力を入れてきたのが、市への愛着を育てる取り組みだ。

 市のふるさと納税事業に長く携わる市参与の萩原美奈枝さん(61)は「返礼品を送って終わりの関係ではなく、富士吉田を知ってファンになってもらいたい」と話す。

 寄付者を対象に市内を案内する無料ツアーを始めたところ人気を呼び、交流イベントに発展させた。市内に足を運ぶ機会をつくり、つながりを深めている。

340万円だった寄付額が…

山梨県富士吉田市のふるさと納税寄付額と件数、全国順位の推移
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 萩原さんがふるさと納税の担当になったのは15年。控除の上限額が約2倍に拡充され、寄付先が5自治体までなら確定申告がいらない「ワンストップ特例」も導入されて、自治体間競争が過熱し始めた時期だ。

 寄付額は14年度に340万円。翌夏に仲介サイト「さとふる」を導入して9200万円まで増えた。

 市はふるさと納税を推進する専門部署を17年に新設。課長になった萩原さんは、返礼品の送り方に気を配った。地元の高校生に返礼品事業者を取材してもらい、紹介カードを作って同封。外装の段ボール箱のデザインも統一した。

 他の返礼品と差別化し「富士吉田を印象づける」ことを狙った。小学生が描いた絵を使ったはがきや、観光案内の小冊子も入れるようにした。

 使い道をわかりやすくするため、寄付金を活用する事業を選べるふるさと納税型クラウドファンディングにも取り組む。外国人観光客に人気の公園にある展望デッキの増設や、ジビエ加工施設の整備など10事業で、目標の2~10倍の金額を集める効果があった。

 活用実績は寄付者に欠かさず周知。返礼品目当てだとしても、地域の課題解決に貢献していることを伝えたいという。

 寄付額が増えてきたことで、市は地元経済への「環流」を図ろうと、100%出資の「ふじよしだまちづくり公社」を設立。寄付金を原資に、市街地の空き物件を使った開業支援をするほか、市外の事業者に委託していたふるさと納税の一部事務も公社が請け負う。

 地道な工夫ばかりに見えるが、積み重ねが奏功し、納税のリピーターは約4割に上るという。

「地域のファンを増やしたい」

返礼品で人気の羽毛布団を箱に詰める寝具メーカーの社員。段ボールのデザインにもこだわっている=山梨県富士吉田市富士見4のタキ・リビングで2025年10月23日午後3時43分、野田樹撮影
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 寄付額は右肩上がりで、24年度に初めて100億円を突破した。萩原さんは「返礼品合戦に参加せず、どうすれば地域のファンを増やせるか考え抜いたことが大きかった」と振り返る。

 ふるさと納税に詳しい山梨大の藤原真史准教授(行政学)は、富士吉田市の取り組みを「1件当たりの寄付額が約2万円で、手持ちの資源を生かして小口の寄付を広く集めている。高校生が関わり地元企業を知ることで、潜在的な人口流出対策にも目を向けている」と評する。

 一方、寄付が一部の自治体に偏って総務省が新たな制約を設ける可能性を見据え、「地場産品の魅力に磨きを掛けるなど、制度が縮小しても強みを生かせる基盤づくりが重要だ」と指摘した。【野田樹】

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