
落とし物管理システムのfind(ファインド、東京・港)は12日、京浜急行電鉄や日本交通など約20社で駅や車内の落とし物を横断して検索できるサービスを始めると発表した。従来は落とし主が利用した交通機関や施設ごとに問い合わせをする必要があった。業界横断で落とし物を見つけやすくし、業務負担の軽減にもつなげる。
ビジネスTODAY ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら。「民間で落とし物の社会インフラを作っていきたい」。12日、東京都内で開いた記者会見でファインドの高島彬社長はこう話した。
データベースで検索、チャットで応答
ファインドが手がける「落とし物クラウドfind」は駅などに届けられた落とし物情報のデータベースを構築し、利用者が素早く見つけられるようにする。まず駅員が保管している落とし物の写真を撮影してオンライン上に登録する。ファインドの担当者が利用者からの問い合わせにチャットで答える仕組みだ。

2023年5月に京王電鉄で本格展開を開始。現在は羽田空港やショッピングモールなど国内の約3500施設が採用している。利用者は無料で使うことができる。ファインドはシステムを導入する企業の落とし物の数に合わせた月額料金を徴収する。

従来は落とした場所や路線が不明な場合、利用した鉄道やタクシー会社にそれぞれファインドを通じて問い合わせをする必要があった。横断検索機能「find chat(ファインドチャット)」として、京急やタクシー会社の日本交通など6企業・団体で利用できるようになった。
東京都交通局など15社でも順次、横断で検索できるようにする。26年4月にはJR東日本もファインドの横断検索のサービスを採用する。26年末には全ての導入企業で横断検索に対応し、28年までに500社への導入を目指す。
業務時間5分の1、交通機関の人手不足緩和
駅では傘やイヤホン、スマートフォンといった忘れ物が多く、交通機関は拾得物の対応で人手を割かれてきた。一方で鉄道では「紙ベースで管理している事業者もまだまだ多い」(高島社長)ほか、インバウンド(訪日外国人)の増加もあり、駅員の人手不足は深刻化している。落とし物業務のデジタル化が進めば、日本の交通機関の生産性を高める一助となる。
ファインドによると、駅の係員がひとつの落とし物を発見した際、データの登録や電話対応に約10分がかかる。同社では対象物を撮影すると自動で品目や色などを識別して、データベースに登録できる仕組みで、1件あたりの業務時間を約2分まで減らせる。利用者からの問い合わせもファインドの従業員が対応し、駅員の負担は少ない。

ファインドは21年設立のスタートアップだ。これまでにベンチャーキャピタルやJR東日本などから累計で13億円を調達している。返却した落とし物は25年11月末時点で累計で100万件と2年前の50倍に拡大した。
導入企業では、落とし物の返却率が3倍に上がった例もある。従来の顧客は私鉄が中心だったが、今回、国内最大の鉄道事業者であるJR東日本の導入が決まり、カバーできる落とし物も大幅に増加するとみられる。JR東日本の喜勢陽一社長は「ストレスのない移動空間を作っていきたい」と意気込む。

同社によると、新規顧客の7割が既存顧客からの紹介だという。一度導入が決まると、接続して運転している鉄道会社や隣接する施設などでも利用できるように紹介する企業が多い。周辺の施設で導入が進めば、自社以外の落とし物を調べられるようになり、手間も省けるためだ。
増える「落とし物損失」、自社倉庫で一括管理も
「落とし物」が及ぼす損失は侮れない。警察庁によると、24年に届けられた落とし物は約3128万点だった。ワイヤレスイヤホンや電子たばこが急増しており、過去最高の水準となっている。
特にイヤホンなど高価なものには、なりすましのリスクもある。ファインドは落としたものの詳細を画像付きで送信する仕組みにしているほか、シリアル番号を求めるなど、不正に取得しにくい仕組みを整えている。
同社は国内で発生する落とし物の総数を約5000万件と見積もっており、26年4月には15%にあたる約750万件のカバーを目指す。今後はファインド側が自社倉庫を持ち、落とし物を一括管理するサービスも検討し、30年には各種サービスで100億円の売上高を目指す。鉄道会社以外の導入事例を増やしていくことが課題になる。
(柴田唯矢)
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