
配車アプリ大手のGO(東京・港)は1日、東京都渋谷区で相乗りタクシーの配車サービスを始めた。通常のタクシーより時間がかかる分、運賃を半額程度に抑える。公共交通の運転手不足が進むなか、都市部においても交通網が脆弱な「交通空白地」が増えつつある。GOは自治体と組んで細かなニーズを取り込み、利用者の拡大を狙う。
ビジネスTODAY ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら。「高齢者や子どもが利用する施設に多くの乗降スポットを設定した。生活の利便性向上に役立ててもらいたい」。1日に都内で開いた出発式において、GOの中島宏社長はこう述べた。渋谷区の長谷部健区長は「ドアツードアに近い形で営業してもらい、移動に困難を抱える方の生活をサポートする」と強調した。

相乗りサービス「GOシャトル」は2026年3月末までの渋谷区の実証実験として、同区の一部地域で展開する。区北西部の約3キロメートル四方と、JR渋谷駅や新宿駅、原宿駅といった主要駅、渋谷区役所などの間が対象エリアとなる。
乗降地700カ所、割引クーポンも
利用者はあらかじめGOのスマートフォンアプリ上で、対象エリア内にある約700の乗降スポットから乗降場所と日時を指定する。その後、GOが複数の利用者の乗車順を踏まえ、目的地までの最適なルートを決める。
トヨタ自動車のミニバン「ノア」などを使って車両1台に最大5人を乗せ、運行は日本交通(東京・千代田)や代々木自動車(東京・渋谷)といったタクシー会社が担い、1日に最大10台を走らせる。曜日を問わず午前8時から午後8時まで利用可能だ。通常のタクシー利用より遠回りになる可能性が高く、料金は4〜5割安い点が魅力だ。
区は実証エリアに住む高齢者と障害者、子育て世帯向けに割引クーポンを発行。GOのアプリを介して1回400円を月20回分付与する。渋谷区は運行車両の借り上げやクーポン配布などに約1億3000万円の補助を25年度予算に計上した。

地方においては電車やバスといった公共交通網が乏しく、人口減に伴う担い手も不足する。そんななか、日本を代表する大都市でも、交通空白地は生まれている。
既存交通とすみ分け、単独の採算確保目指す
都心部は駐車場代などの維持費が高く、自家用車を持ちづらい。タクシーは人通りが多い主要駅周辺に集中しやすく、アプリで呼んでもつかまりにくい。こうした穴を埋める巡回型の「コミュニティーバス」があるが、定時運行のため利用者の確保が難しく採算が悪化していた。
渋谷区では以前にも相乗りサービスの取り組みがあった。21〜22年に高速バス大手のWILLER(ウィラー、大阪市)やKDDIによる共同出資会社などが事前予約で相乗り車両を運行するサービス「mobi(モビ)」の実証実験を実施した。ただ、区と既存事業者との事前協議が不十分だったため、本格運用に至らなかった。
白羽の矢が立ったのがGOだった。区はGOの配車サービスが一定程度普及している点に加え、昨年末から東京都江東区や中央区で自前の相乗りサービスを手掛け、既に一定規模の利用者を確保していることを評価した。
区は今回、実証実験前に有識者やバス会社、地域住民などとの協議体を通じて料金や乗降スポットの妥当性などを協議。バスとタクシーの間の交通空白を埋められるようにした。26年度以降は補助額を縮小する方針だ。
GOとしても今回の事業をテコに事業の拡大を見込む。配車アプリでは国内最大手とみられるが、米ウーバーテクノロジーズ傘下で同業のウーバージャパンや中国系のDiDiモビリティジャパン、S.RIDE(エスライド)といった競合も多い。
そこで今回のサービスを通じ、従来の主要顧客である観光客やビジネスパーソンに加え、子どもや高齢者といった新たな層へと裾野を広げる狙いがある。渋谷区は一定規模の人口があり「サービスの認知度向上で利用者が増えれば採算が見込める」(同社)とみる。
交通空白地、都市部でも増加へ
全国では公共交通の担い手不足が進む。新型コロナウイルス禍や24年度から始まった運転手の残業規制の強化もあり、各地で路線の縮小・廃止が相次ぐ。日本バス協会(東京・千代田)はバス運転手は30年に必要人員の3割にあたる3万6000人が足りなくなると予測する。

地域の足を確保しようと、自治体は乗り合いバスなど事前予約型のサービス実証を模索する。民間企業でも、相乗りタクシーを手掛けるニアミーが人工知能(AI)を使った配車効率の向上に乗り出し、ウィラーなどは東京都港区でモビを導入している。今後も官民による交通空白を解消する取り組みが相次ぎそうだ。
(橋本剛志)
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