記者会見をする経済同友会の新浪剛史代表幹事=東京都千代田区で2025年9月3日午後3時49分、渡部直樹撮影

 「適法と認識していた」。サントリーホールディングス(HD)の会長辞任発表から一夜明けた3日、記者会見した新浪剛史氏は一貫して潔白を主張した。「私の行動への評価は真相が解明されるなかで皆さまにご理解、納得していただける」とも述べ、突然の辞任への無念さもにじませた。

 新浪氏は8月、日本では規制されている大麻成分を含む製品を密輸入した疑いで福岡県警から自宅の捜索を受けたが大麻や違法薬物は発見されず、新浪氏の尿からも薬物使用が疑われる成分は検出されなかった。

 サントリーHDは新浪氏の報告を受け「法令に触れなくても疑義があること自体が問題」と判断し、1日に新浪氏が提出した辞任届を受理した。新浪氏は会見で「大好きなサントリーに迷惑をかけてはいけない」と辞任理由を説明したが、違法なサプリメントの所持・使用は否定した。

経済同友会の定例記者会見を終え、頭を下げる新浪剛史代表幹事=東京都千代田区で2025年9月3日午後4時4分、渡部直樹撮影

 新浪氏によると、サプリメントは出張による時差ぼけや睡眠不足への対策として、米ニューヨークの知人女性から薦められた。4月の米国出張時に現地で購入して持ち帰ろうとしたが、アラブ首長国連邦(UAE)やインドを経由する予定があると知った女性から「それらの国へは持ち込むことが厳しいので代わりに自分が日本へ持参する」と助言され、従ったという。

 新浪氏は、入国後に新浪氏の自宅へ郵送すると女性から聞いていたものの手元には届いていないと主張。「送り主がよく分からない荷物は廃棄すると家族で取り決めている」として、家族が廃棄した可能性があるとの見方を示した。

 その後、8月になって女性が福岡県在住の弟へサプリメントを郵送し、新浪氏宅へ送るよう依頼していたところ、この弟が逮捕されたという。新浪氏はそれが自身への警察の捜査につながったとの認識を示したうえで、「2回目の郵送については全く知らされておらず、輸入するよう指示したものでもない」と訴え、自身の関与を否定した。

 一方、サントリーHDを世界的企業に育てた自身の功績を「サントリーの文化が世界に根付く基礎を作った」と誇った。半面、「もっとやりたいことがあった」と悔しさも吐露した。

 突然の会長辞任について「(疑いのあるサプリは)手元にないし飲んでもいないが、結果的にこうしたことで世間を騒がせるのは大変問題。そういう意味で納得している」と語った。ただ「警察から何かしら事情聴取などされた会長、社長はみんな辞めなきゃいけないのか。そういう事例は絶対作っちゃいけない」と語気を強める場面もあった。

 経済同友会の代表幹事の職務については「一度は辞めようと思ったが、同友会の仕組みに委ねるのが重要だ」として判断を保留した。だが、代表幹事は現職の企業経営者が務めるのが通例。サントリーHD会長を辞任後も続投すれば、身内への甘さに批判も出かねない。

 新浪氏が同友会での活動を自粛する間、代表幹事を代行する岩井睦雄筆頭副代表幹事(日本たばこ産業会長)は会見で、新浪氏の処遇については9月中をめどに議論を急ぐ構えを強調した。ただ新浪氏が潔白を主張していることなどから、同友会内部で「今すぐ辞めるべきだとかいう話は一切出ていない」と明かした。

 今回の電撃辞任を巡る新浪氏やサントリーHD、同友会の対応について、企業統治に詳しい牛島信弁護士は「警察の捜査対象となったことで大企業のトップとして社会的制裁を受けることはやむを得ない。サントリーHDは捜査結果を待たず新浪氏に辞職を勧告したが、会社を守り世の中への責任を果たすための良い判断だ。経済同友会は組織の重要性や影響力を鑑み、できるだけ早くフェアな手続きで結論を出す必要がある」と指摘した。【加藤美穂子、成澤隼人】

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