写真=的野 弘路

疲れやすい現代社会。睡眠などによる疲労解消や健康維持のための運動は、あくまで個人に委ねられてきた。しかし、今は違う。仕事のパフォーマンスを上げるため、休める環境を企業が率先して整え始めている。社員の疲れをいかに取るか。企業の「休養スキル」が問われる時代になりつつある。

経営者として、自ら率先して休養を取り、運動を続けているのがGMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長だ。若年層やスタートアップ経営者にありがちな「寝ずに働く」とは無縁。若い時期から継続的に運動の時間を取る。62歳となったが「今が人生で一番体調がいい」と胸を張る熊谷氏に、休養と運動、そしてパフォーマンスについて聞いた。

――休養のために取り組んでいることを教えてください。

「自分のパフォーマンスを最大化するために、『睡眠』『運動』『栄養』『定期的な検診』『ポジティブ思考』を意識しています。具体的には、自分の生活を定量的に分析するため、ウエアラブル機器を使って睡眠時間や運動量を測っています。体調が絶えずいい状態でいられるように、自分でコントロールしていますね」

「運動は、有酸素運動と筋トレを交互にやっています。今朝は5時半に起きて、筋トレを25分ほどしてから仕事に来ました。多分、普通の62歳には思えないですよ」

――睡眠では何に気をつけていますか。

「睡眠の質です。質を上げるために一番大事なのは、飲酒を減らすことでしょう。アルコールを摂取すると心拍数が上がって、深い眠りに入れない。だから僕は50歳を過ぎてからは、酒の量をコントロールしています。ワインが好きで、20〜30代はお酒をかなり飲んでいましたが、最近は月の半分は一切アルコールを摂取していません」

「時間は有限です。24時間は1440分。睡眠時間は毎日7時間半を確保しているため、残りは990分です。その限られた時間を何に使うか。同じ990分でも、使い方によってアウトプットが変わる」

日程は自分で決める

――経営者として多忙を極める中で、運動や睡眠の時間はどのように確保しているのですか。

「スケジューリングを人任せにしないことです。日程は自分で先に決める。日程上は一見、空いているように見えても、そこは勉強や運動のルーティンが入っている。それを崩さないように、自分で自分の未来を予約してしまう」

「これは何十年も続けています。だから勝手に会議を入れられることはありません。会議などは日時の枠が決まっているし、僕が勉強する時間も何曜日の何時から何時までと決まっている。そうしないと、いろいろなことをなし得ないですよね。健康維持も含め、僕がパイロットの資格取得や趣味でDJやワインを楽しめているのは、自分で自分のスケジュールを決めているからです」 

「昔から自分で時間を捻出していますが、50歳を過ぎたあたりから、仕事と運動に関する考え方が変わってきました。今は、仕事よりも運動を優先しています。まずは運動をして、(身体的な)パフォーマンスを上げてから仕事をする」

「運動は経営に出る」

――毎日、健康的な生活を意識して過ごすのは、正直つらくないですか。

「全く。むしろ62歳の今は人生で一番体調がいいです。年を重ねると体力が落ちてきたり、健康の数値が悪くなったりするといいますが、僕の場合は数値すら今が一番いい。体力も今が一番あるし、頭も一番回る」

「会社も一番伸びているし、今が絶好調です。きちんと休養を取って、運動をしてきたことが結果につながっていると考えます」

GMOインターネットグループの東京のオフィスにあるジム。24時間営業する(写真=的野 弘路)

「経営者にとって一番の褒め言葉は『しぶとい』ではないでしょうか。困難にあっても、『あいつはしぶといよね』と言われる経営者っていますよね。僕もそうなりたい。そういう人たちに共通するのは、運動習慣なんです」

「運動している経営者と、そうでない経営者はやっぱり分かりますよ。見た目もそうですけど、経営に出てくる。経営は意志の強さが事業に関係する。そして意志の強さは体力や運動などと比例しています。運動を続けるのはつらい。だからこそ、運動と経営には相通じるものがある」

――社内でマッサージの施術室、仮眠室、ジムを設けるなど、福利厚生が充実しています。社員の健康に投資する理由を教えてください。

「自分で健康管理をしていると、パフォーマンスを最大化できるじゃないですか。それと同じことをパートナーにもしてもらいたいからです」

(編集部注:GMOインターネットグループでは従業員をパートナーと呼ぶ)。

「約8000人のパートナーは僕の分身ですから、彼ら彼女らのベストパフォーマンスを出せる環境を整えたい。それが業績を良くするポイントにもなる。だからこそ、社内に24時間いつでも使えるジムを設置し、昼寝の推奨や栄養管理などの環境整備をしてきました。クラブ活動を支援し、運動を促すプロジェクトもしています」

「昼寝は会社として推進しています。社内に全館放送で『今から休んでください』とアナウンスして、寝やすくなる環境を整えています。会社で昼寝をしていたら、『何で寝ているんだ!』と怒るマネジャーがいる会社も多いでしょう。でも、寝た方が社員のパフォーマンスが上がることは定量的に証明されています。むしろやらない方がおかしいですよね。昼寝で個人のパフォーマンスが向上し、企業の業績も良くなりますよと言いたいです」

 "疲れにくい体づくり"も、休養の重要な要素の一つだ。GMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長は、筋トレを40年以上続けている。

 忙しいスケジュールの中でも、健康を意識するのは、自分のパフォーマンスを最大化するため。「自分の分身である従業員には、同様の健康管理ができる環境を整えたい」(熊谷氏)。この考えのもと、2010年から福利厚生の整備を開始。仮眠室やマッサージルーム、食堂、24時間無料で使えるフィットネスジムなどを社内に拡充してきた。

 マッサージルームには施術師が常駐し、10分500円、最長30分間利用できる。積極的に休養を取ってもらうため、毎週水曜日は昼寝を促す館内放送を流すなど、就業時間内でも休養を取れる環境を構築している。

 同社の業績は好調だ。24年12月期は売上高と営業利益がともに過去最高を記録。10年前と比べて、連結売上高は2.5倍の2774億円に、営業利益は3.6倍の466億円となった。今後も社員のベストパフォーマンスを引き出すため、健康支援策を強化する考えだ。

社内にマッサージルームと仮眠室がある。予約制で、業務の合間に効率よく活用できる(写真=的野 弘路)

(日経ビジネス 藤原明穂)

[日経ビジネス電子版 2025年8月4日の記事を再構成]

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