

人工知能(AI)の旺盛な需要を受けて、生成AI開発に必要な画像処理半導体(GPU)サーバーの消費電力が増えている。いかに効率的に電力を使用し、発熱する機器を冷却するかが、目下、データセンター(DC)では喫緊の課題になっている。
そこで注目されているのが、液体を使った冷却方法だ。GPUサーバーは今や、従来の空調を使った冷却方法では対応しきれない水準になっており、代替技術として期待されている。
目安として1ラック当たりの消費電力が20キロワット(kW)を超えると空調では対応しきれず、液冷が活用されるという。例えば米エヌビディア製の先端GPU「GB200」を搭載したサーバーは消費電力が約130kWにも達すると言われ、もはや空調では対処しようがない。液冷対応に取り組んできたあるDC関連事業者でさえも「正直、(ここまでの消費電力の増加幅を)2024年までは全く想像していなかった」と吐露する。
液体冷却装置については、需要増を見越して各社が導入に向けた実証などを進めている。そうした中で、思わぬ課題も見えてきた。
ニデック、10月から新タイプの液冷装置を試験運用
日本有数のDC集積地である千葉県印西市。ニデックは、三菱商事などが出資するDC運営のMCデジタル・リアルティ(MCDR、東京・港)と組み、MCDRが印西に持つDCで10月、大規模液体冷却装置の試験運用を本格的に始める。
採用されたのはイン・ロー型と呼ばれる液冷装置だ。サーバーを収容するラックへ列ごとに液体を送って循環させることで、複数のサーバーをまとめて冷却できる。

DCは従来、空調でサーバーを冷やす空冷方式が主流だった。液冷方式もあったが、これまでニデックが主に手掛けてきたのは、サーバーベンダー向けの、ラックを1つずつ冷却するイン・ラック型のものだった。ニデックは、より冷却能力が高いイン・ロー型液冷装置でサーバールーム内の電力効率を空冷と比べて30%高めることを狙う。5月からはタイ工場で、イン・ロー型液冷装置の量産を始めた。
GPUの普及や消費電力増にともなって、液冷設備の市場も世界的に伸びている。調査会社プレセデンス・リサーチによると、DCの液冷市場規模は2024年、39億3000万米ドル(約5800億円)と推定され、これが10年後の34年には225億7000万米ドル(約3兆3200億円)に達すると見込まれる。25〜34年の年平均成長率(CAGR)は19.1%と予測されている。

日本で導入が遅れている2つの理由
こうした流れは日本も例外ではなく、DCでの液冷装置の導入は今後、拡大が見込まれる。富士キメラ総研によると、DC向け冷却設備の市場規模に占める液冷関連製品の割合は、23年には5.9%だったが、29年には15.7%に拡大する見通しだ。
ただ、足元では「米国などと比べて、水冷化がまだまだ遅れている」(ニデックで小型モータ事業本部副本部長を務める、田中裕司執行役員)。液冷はもともと、スーパーコンピューターの運用などでは使われてきた。だが日本のDC市場において、米IT(情報技術)大手以外の企業も含めて広く浸透するにはまだ時間がかかるとの見方もある。
理由は主に2つ考えられる。1つ目は、生成AI開発でしのぎを削る米IT大手以外の一般企業ではGPUサーバーの利活用がそれほど進んでいないことだ。1台導入するにも1億円規模の投資が必要なこともあるGPUサーバーについては「活用できるのかまだ様子見の段階」(業界関係者)という企業も少なくない。
2つ目は、冷却装置にまだ統一された規格がないことが挙げられる。開発規模の大きい米IT大手などはDC1棟を丸ごとDC事業者から借り上げることも多く、その場合は全フロアの液冷システムを顧客が求める同一の規格に沿って構築すればいい。一方、複数の一般企業などが相乗りで1つのDCを利用する場合はそうはいかない。顧客ごとに異なる要望に合わせて、複数の規格に対応できるようにDCを設計・建設する必要がある。その分、建設コストがユーザー企業の利用料に影響する可能性もある。
規格は国際的にもまだ統一されていないものの、例えば液冷の導入が進む米国では「主に数種類に絞られてきている」(グローバルでDCを展開する事業者)という。
サーバーの消費電力が拡大の一途をたどる中、液冷装置などを活用して電力の使用効率を高めることは急務。経済産業省は省令整備などを進めて29年度以降に新設するDCに省エネ義務を課す方針だ。省エネの機運の中でも注目される液冷方式をいかに浸透させるか。まずは業界や行政機関が連携し、液冷方式について規格統一などを進めることが第一歩となる。
(日経ビジネス 中西舞子)
[日経ビジネス電子版 2025年8月6日の記事を再構成]
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