重要情報の開示後退は米市場の強みをそぎかねない=ロイター

【ニューヨーク=竹内弘文】トランプ米大統領は15日、SNS投稿で米上場企業の業績開示頻度を現状の四半期ごとではなく半年ごとに減らすべきだと主張した。法令順守コストを抑えて米企業の競争力を上げる狙いだが、むしろ重要情報の開示後退は米市場の強みをそぎかねない。

第1次政権時も同じ主張

「中国が50〜100年の視野で企業経営しているというのに、我々は四半期単位で経営している。この議論を聞いたことがあるか。これでいいわけがない」。トランプ氏はSNSに四半期ごとの業績開示義務が近視眼的な経営につながっていると指摘し、四半期報告を撤廃すれば「(企業の)お金を節約できるし、経営陣は適切な経営に専念できる」と主張した。

四半期報告の撤廃はトランプ氏の持論でもある。第1次政権時代の2018年には米食品・飲料大手ペプシコのインドラ・ヌーイ最高経営責任者(CEO、当時)から提案を受けてトランプ氏は今回同様の主張を展開し、上場企業の開示を所管する米証券取引委員会(SEC)に見直しを指示していた。当時は結局、撤廃は見送られた。

四半期報告がマーケットや上場企業の短期主義を招いているという議論は以前からある。四半期決算の発表のたびに株価は急変動する。役員報酬として自社株を保有することの多い米企業経営者は、目先の株価を押し上げるような短期的な施策に走る動機があるとの指摘だ。

欧州企業は自主的に四半期開示を継続

実際、英国や欧州連合(EU)は上場企業に四半期の業績開示を義務付けず、半年ごとでもよいというルール設計になっている。欧州企業に比べて開示コストが重い米企業が競争上劣後に立たされるとの認識がトランプ氏の主張の背景にあるようだ。

ただ、証券取引所の規則や世界の投資家の要請を背景に、欧州企業もほとんどが四半期開示している。頻度の低下は企業経営の実態にかかる情報開示の後退につながる。とりわけトランプ政権が導入した関税が企業経営を揺らすなか、タイムリーな業績開示は円滑な株価形成に必須との見方は多い。

米運用会社プリンシパル・アセット・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、シーマ・シャー氏は米ブルームバーグテレビの番組で「経済の不透明感が強い今、関税影響の開示無くしてどうやって株式を売買できるというのか」と述べ、開示頻度を低下させようとする取り組みに警戒感を示した。

米株市場の流動性の低下懸念も

長期的な投資家だけでなく短期的な観点で売買する投資家も存在し、多様な戦略の参加者がいることで厚みある米国市場は成り立っている。「企業寄り」の姿勢を前面に打ち出すトランプ政権の姿勢が短期筋を萎縮させてしまえば、流動性の低下にもつながりかねず、米市場の魅力をくすませてしまう可能性もある。

米投資銀行TDカウエンのジャレッド・セイバーグ氏は「SECが規則改定に動く可能性はあるが、容易ではない。(SECの)規則提案は早くて26年になるだろう」とみていた。

日本でも企業開示コストの重荷は議論の的となってきた。21年10月の岸田文雄首相(当時)は所信表明演説で四半期開示制度の見直しを提言した。ただ、開示後退を懸念する声は根強く、抜本的な改革には至らなかった。

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