
【ソウル=小林恵理香】韓国と米国の関税交渉は31日から韓国で始まるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前に、最終合意に向けた協議が大詰めを迎える。8月に合意した3500億ドルの対米投資を巡る米韓の認識のずれが交渉を長引かせている。
韓国は関税交渉の期限が迫っていた7月、土壇場で合意にこぎ着けた。相互関税と自動車関税を米国が提示していた25%から日本やEUと同レベルの15%に引き下げる代わりに、3500億ドル(約52兆円)の対米投資を約束した。
韓国側は3500億ドルのうち1500億ドルは造船分野での協力促進に充て、残りの2000億ドルは半導体や2次電池、原子力、バイオなど韓国企業が競争力を有する分野に投資するとしていた。
対米投資の大部分は融資と保証で、直接投資は全体の5%ほどを見込んでいた。韓国政府は米韓の2国間協力を進めるための「ファンドだ」と説明していた。
トランプ米大統領は9月25日、ホワイトハウスで記者団に「韓国は3500億ドルを前払いで米国に投資する」と言及した。米国が「現金による直接投資」を迫っているとの見方が広がった。投資先についても「米国が選定・管理する」との認識を示す。
トランプ氏の発言を受け、韓国の魏聖洛(ウィ・ソンラク)国家安保室長は2日後の27日、韓国メディアのインタビューで「3500億ドルを現金で支払うことはできない」と反論した。「客観的かつ現実的に、韓国が対応できる水準でない」と言明した。
7月の合意後も金正官(キム・ジョングァン)産業通商資源相や呂翰九(ヨ・ハング)通商交渉本部長らが何度も米国を訪問している。最終合意に向けて、対米投資の双方の認識が異なる部分を解決するために調整を続けてきた。
米国は韓国との交渉で、日米関税合意を引き合いに出す。
投資の実施時期をトランプ氏の任期が終わる2029年1月19日までとすることや投資先を米政府が選ぶなどといった日米間の合意に盛り込んだ条件をのむよう韓国にも求めた。米報道では対米投資額の増額も打診されたという。
呂氏は9月、記者団に「日本と韓国は違うという部分を様々な客観的資料と分析を示して最大限説得している」と明かした。
韓国銀行(中央銀行)によると、9月末時点で韓国の外貨準備高は4220億2000万ドルだった。米国が投資を要求する3500億ドルは韓国の外貨準備高の83%に相当する。日本の場合、対米投資額の5500億ドルは日本の外貨準備高の4割ほどになる。
短期間にドルが流出すれば、為替レートが不安定になるとの懸念がある。為替市場への影響を和らげるため、韓国政府は交渉の必須条件として米韓間の「無制限の通貨スワップ」を求めた。
韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領も米メディアのインタビューで「通貨スワップもなしに全額現金で投資すれば、韓国は1997年の金融危機と同じような状況に直面する」と警戒感を示した。
米韓間での通貨スワップについては米国側が難色を示し、交渉は難航している。韓国メディアの報道によると、韓国側は対米投資を最大10年間に分割して支払う案で妥結する道も探る。
対米投資の細部で折り合えず協議が続いているため、韓国車には依然、トランプ氏が提示した25%の関税が適用されたままだ。APEC首脳会議の開催にあわせたトランプ氏の訪韓を目前に、韓国政府は通商問題の決着を急ぐ。
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