ロンドンにあるBBC本部(10日)=AP

【ロンドン=江渕智弘】トランプ米大統領は自身の演説を改ざんして放映したとして英BBCに番組内容の撤回を要求した。14日までに応じなければ10億ドル(約1540億円)以上の損害賠償を求める訴訟を起こすと示唆した。米英メディアが10日報じた。

トランプ氏の弁護士がBBCに書簡を送った。①(演説を編集した)番組やトランプ氏に関するあらゆる虚偽報道の即時撤回②謝罪③適切な賠償――を要求した。応じない場合、米フロリダ州で訴訟を起こすという。

英国では一般的に名誉毀損の事案の発生から1年以内に訴訟を起こす必要がある。2024年10月のドキュメンタリー番組の放映から1年を過ぎたため、この期間が長いフロリダ州を選んだのではないかと報じられている。

トランプ氏はこれまでもメディアを標的に訴訟を相次いで起こしてきた。9月には24年11月の大統領選をめぐる社説などで名誉を毀損されたとして米紙ニューヨーク・タイムズに少なくとも150億ドルの賠償を求める訴訟を提起した。

BBCのサミール・シャー理事長は10日付の声明文で「編集で(トランプ氏が)暴力行為を直接呼びかけているような印象を与えた。判断ミスをおわびする」と謝罪した。業務執行の責任者である会長と報道部門トップは9日に辞意を表明した。

誤解を与える編集をしたのは24年10月に放映したドキュメンタリー番組「トランプ、セカンドチャンス?」だ。21年1月の米議会襲撃事件の直前にあったトランプ氏の演説の別々の部分をつなぎ合わせ、あたかも同氏が扇動したような印象を与えた。

英テレグラフが3日、BBCの内部告発の文書を報じ、問題が明るみに出た。この文書はBBCアラビア語版についても「イスラエルを侵略者として描いている」と偏向を指摘した。BBCのトランスジェンダー関連の報道も客観性を欠くと問題視した。

公共放送のBBCは受信料で運営する。人気を高める新興右派「リフォームUK(改革党)」のファラージ党首は10日、「何十年にもわたり組織的に偏向してきた」とBBCを批判したうえで、受信料制度を現行のまま維持することはできないと主張した。

小さな政府を志向する最大野党・保守党にも受信料制度に否定的な声が根強い。受信料の根拠となる国の認可は27年で期限切れとなり、28年以降は未定だ。制度の更新に向けて政府と協議するBBCにとって今回の不祥事は逆風となる。

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