ウクライナのゼレンスキー大統領の最側近で、政権の事実上のナンバー2となっているアンドリー・イエルマーク大統領府長官(54)が28日、辞表を提出した。ゼレンスキー氏が同日、ビデオ演説で発表した。国営原子力企業を舞台にした大規模な汚職事件をめぐり、その責任を問う声が国内で大きくなっていた。
ゼレンスキー氏は演説で「交渉ではいつもウクライナの立場を代弁し、それは常に愛国的なものだった」と謝意を表明。一方で「うわさや臆測があってほしくない」と述べ、29日に大統領府の刷新について協議するとした。
イエルマーク氏はこれまで汚職事件の捜査対象者としては名指しされていないが、国家反汚職局(NABU)と反汚職専門検察(SAP)は28日、イエルマーク氏の自宅を家宅捜索した。イエルマーク氏も捜索の事実を認め、「全面的に協力する」とSNSに投稿していた。
NABUとSAPの捜査は1年3カ月以上にわたって続き、大規模な組織を率いた首謀者はゼレンスキー氏の元盟友とされる。複数のウクライナメディアによると、今年7月にNABUとSAPの独立性を制限しようとした動きは、イエルマーク氏が主導したという。大統領の周辺に捜査の手が伸びていることを知っていた可能性がある。
国民の反発を受けて両機関の独立性は回復されたが、場合によっては捜査が潰されていたおそれもあった。また、野党議員は、捜査員が入手した記録に、イエルマーク氏の音声もあると主張している。
これに危機感を覚えた与党議員の一部は、地元メディアを通じてイエルマーク氏の解任を要求。さらに、政権幹部の大規模な入れ替えを求める声も上がっていた。
イエルマーク氏は、ゼレンスキー氏とは大統領就任前から付き合いがあり、2019年の大統領選では選挙運動に従事。20年2月に大統領府長官に任命され、内政、外交で大きな影響力を持っていた。
一方、選挙を経ていないイエルマーク氏が多大な権限を有していることに、不満の声も強かった。ウクライナの調査機関「ラズムコウセンター」が2~3月に実施した世論調査では、イエルマーク氏に対する「信頼」は17.5%にとどまり、「不信」が67.2%に上っていた。
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