アサド独裁政権崩壊1年を祝うパレードを待つ人々(8日、ダマスカス)=AP

シリアでアサド政権が崩壊し1年がたった。独裁者は去ったが、宗派・民族間の衝突が相次ぐ。融和がシャラア暫定大統領の重い課題だ。分断を乗り越え、内戦で荒れた国の復興を急いでほしい。

不安定な状態が長引き、中東の不確実要因を増やすことがあってはならない。暫定政権は、多数派のイスラム教スンニ派が少数派を疎外する構造に陥らず、統合へ具体的行動をとる必要がある。

親子2代、半世紀も圧政を敷いたアサド政権は昨年12月、反体制派の攻勢で瓦解した。国民を虐殺し、恣意的な拘束や拷問で弾圧した強権統治は終わった。しかし安全になったとは言い切れない。

暫定政権を主導するスンニ派と、少数派で旧政権を支えたアラウィ派や異端視されるドルーズ派の衝突が相次いだ。独裁政権の重しが外れた反動の面がある。北東部はクルド系勢力が支配し、国土も分裂が続く。

混乱に乗じ、南隣のイスラエルはシリア南部に軍を駐留させ、ドルーズ派の保護を名目に首都などを空爆した。北隣のトルコはシャラア氏の暫定政権を支援し影響力を増している。

他国の介入や勢力争いを誘発する力の空白は危うい。シリアの統治の安定は、中東の緊張を遠ざけるためにも重要だ。

外交では、孤立を脱する前進があった。シャラア氏は11月に訪米してトランプ大統領と会談し、米政府は対シリア制裁を緩めた。

制裁解除は投資誘致の追い風になる。世界銀行は、2011年以降のシリア内戦の復興費を約33兆円と推計した。インフラ復興には、国際的な協力が重要になる。

再建が遅れれば内戦を逃れたシリア難民の帰還も滞る。国連によると、この1年で国外から戻った難民は全体の2割にとどまる。

14年近く続いたシリア内戦の爪痕は深い。日本が国連を通じた人道支援などを重ねてきた意義は大きい。国際社会とともに、シリアの安定を目指す息の長い協力を続けてほしい。

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