トランプ大統領とプーチン大統領の首脳会談は15日、アメリカ・アラスカ州の最大都市アンカレジにあるアメリカ軍の基地で行われる予定です。

対面での米ロ首脳会談はおよそ3年半にわたるロシアによるウクライナ侵攻後、初めてで、ロシア側によりますと現地時間の15日午前11時半ごろ、日本時間の16日午前4時半ごろから行われます。

そして、2人だけで通訳を介して会談した後に、両国の代表団も加わるとしていて、終了後には共同会見も予定されているということです。

会談に先立つ14日、トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し「よい会談になると思うが、より重要なのは2回目だ。プーチン大統領、ゼレンスキー大統領、もしかしたら、ヨーロッパの首脳も加わる会談を行うことになるかもしれない」と述べました。

その上で、「今回、成し遂げたいのは次の会談をセットすることだ。うまくいかなければ、会談はすぐに終わるだろうし、うまくいけば、近い将来に平和を手にすることになるだろう」とも述べ、ウクライナも交えた次の会談をすみやかに行いたいと強調し、そのような会談をアラスカで行う可能性にも言及しました。

一方、ロシア側は、大統領府のウシャコフ補佐官が14日、「ウクライナ危機の解決が中心の議題になるだろうが、平和と安全の確保に関するより幅広い議論も行われるだろう」と述べた上で経済や貿易の分野も含めた2国間関係についても議論が行われるという認識を示しています。

また、ロシア国営のタス通信は、大統領府のペスコフ報道官が、首脳会談を受けて成果文書を出すことは予定されていないと述べたと報じました。

今回の会談では、まずは米ロの首脳が議論した上で停戦に向けて一定の進展を見いだせるかが焦点となります。

会談どう見る? アメリカの専門家は

国際関係が専門のジョージタウン大学のチャールズ・カプチャン教授は、トランプ大統領が対面での米ロ首脳会談の開催を決めたことについて「プーチン大統領との対話を始めることを評価したい。この戦争が終わるには、アメリカ、ロシア両国の直接対話が必要だからだ。この戦争は戦場ではなく交渉の場で終結するものだ。ロシア、ウクライナともに勝利できる力を持っていない」と述べ、会談を行うこと自体には前向きな評価を示しました。

一方で「機が熟す前に会談を行うことは、トランプ大統領にとって間違いかもしれない。なぜなら、プーチン大統領にとっては、冷遇された孤立状態を抜けだし、アメリカに招かれ、大統領と対面することは大きな勝利を意味するからだ。プーチン大統領が取り引きや妥協に応じ、戦争を放棄する用意があるとトランプ大統領が判断した場合にのみ、その大きな勝利を提供すべきだが、プーチン大統領がその方向に向かっているかはわからない」と述べ、戦争終結に向けた具体的な道筋が見いだせていない中での会談に懸念を示しました。

そして会談の行方については「最も可能性が高いのはほとんど何も変わらず、会談後の状況が会談前とほぼ同じというものだ。つまり、プーチン大統領は時間を稼いで戦場で前進し、ウクライナは兵力や物資不足に直面するという状況だ」と予測しました。

その上で「もし、トランプ大統領がこの会談で戦争終結に向けた具体的な成果や進展を得られずに立ち去ることになれば、トランプ大統領はなんらかの代償を払うことになるだろう」と述べ、今回の会談はトランプ大統領にとってリスクも伴うものになると指摘しました。

イギリスの専門家 “双方の思惑には隔たり”

イギリスの駐ウクライナ大使を務めたイギリスのシンクタンク、チャタムハウス=王立国際問題研究所のサイモン・スミス氏は、アメリカ側のねらいについて「トランプ大統領は自分がウクライナでの紛争の終結に大きな影響をもたらしていると示したいのだろう。てっとり早い解決策を模索している」と述べ、トランプ大統領が解決を急いでいるのではないかとの見方を示しました。

一方、ロシア側のねらいについては「プーチン大統領は時間稼ぎをしているのだろう。時間がたてばウクライナや、ウクライナを支援している国が弱体化すると考えている。トランプ大統領のようにこの会談から結果を得る必要を感じていないと思う」として、双方の思惑には隔たりがあると指摘しました。

そして、「トランプ大統領はプーチン大統領から紛争を終わらせるためには領土の譲歩が不可欠だと説得させられる可能性もある」と述べた上で、会談の行方について「必ずしも大きな結果をもたらすとは思わない。公正で、許容できる解決策がもたらされる可能性は低く、ウクライナやヨーロッパにとってよくない結果となる可能性も高い」として懐疑的な見解を示しました。

ウクライナの戦況 どう見る

ウクライナの戦況の分析を続けているアメリカのシンクタンク戦争研究所によりますと、ロシア軍は一方的に併合を宣言している「ウクライナ東部のルハンシク州とドネツク州」「南部のザポリージャ州とヘルソン州」に加えて、東部のハルキウ州、北東部のスムイ州に部隊を展開させています。

ロシア軍はヘルソンの市街地に集中的に砲撃を加えていて、住民を追い出そうとしているほか、ドネツク州の要衝、ポクロウシクの制圧を目指して激しい攻撃を行っていると分析しています。

戦争研究所のカテリナ・ステパネンコ氏は「最も危機的な状況はポクロウシクの方面で、ロシア軍はポクロウシクやその周辺にも侵入している。無人機などでウクライナ軍の補給ルートを断とうとしている」と述べています。

そのうえでロシア軍がポクロウシク方面に戦力を集中させているねらいについては「目的は情報面にあると思う。ロシアが優位にあると主張する取り組みの一環だ」と述べ、ロシア側は米ロ首脳会談を前にアメリカとのウクライナ情勢をめぐる交渉で優位に立とうと、占領地の拡大を急いでいるとの見方を示しました。

また、今回の首脳会談では領土をめぐって意見が交わされるとみられる中、ステパネンコ氏は「ウクライナ南西部の黒海沿岸やドニプロ川沿いの地域は、ウクライナにとって経済的にも軍事的にも不可欠な地域だ。ロシアによる侵攻を繰り返させないという長期的な観点からも、少なくともヘルソン州とザポリージャ州は解放しなければならない」と述べ、ロシア軍が一部占拠しているザポリージャ州とヘルソン州の奪還が重要だとの考えを示しました。

ウクライナの人たちは

ウクライナ情勢を巡りアメリカとロシアの首脳会談が行われることについて、ウクライナの首都キーウで街の人たちに話を聞くと、今月で3年半に及ぶ侵攻の終結につながって欲しいと願う声が聞かれる一方で懐疑的な声も聞かれました。

このうち50代の男性は「過度に楽観的ではないが、期待は持っている。多くの人が愛する人を亡くし、人生を粉々にされた。みな疲れ、戦争が早く終わって欲しいと思っている」と話していました。

また、ロシアが侵攻したヘルソン州から避難している50代の女性は「ウクライナ抜きに会談が行われることは誰も良いとは思っていないだろう」としながらも「交渉には期待を持ちたい。何かが起きれば、うれしい」と話していました。

一方、50代の男性は「われわれの大統領が首脳会談に参加できないのは間違っている。ウクライナなしにウクライナについて何らかの合意がなされるのは外交的ではない」と話し、「これまでの会談や合意は何にもつながらなかったので、今回も特別なことは起きないだろう」と懐疑的な見方を示していました。

トランプ大統領 就任後の動き

アメリカのトランプ大統領はことし1月に大統領に就任する前から「戦争を24時間で終わらせる」と主張するなどロシアとウクライナとの戦闘の早期終結の実現に意欲を示してきました。

就任後には、前のバイデン政権の方針を転換してロシアのプーチン大統領との接触に乗り出し、2月12日にプーチン大統領との電話会談を行ったと発表。

その後、2月18日には2022年のロシアによるウクライナへの侵攻開始以降、初めて、米ロの外相が対面で正式に会談しました。

また、同じ2月、トランプ大統領は、ウクライナが求めているNATO=北大西洋条約機構への加盟について「現実的ではない」と否定的な考えを示したほか、ウクライナのゼレンスキー大統領を「選挙なき独裁者」と呼んで非難するなど、ロシア寄りとも受け止められる発言を相次いで行いました。

2月28日にホワイトハウスで行われたゼレンスキー大統領との会談では激しい口論となり、予定していたウクライナ国内の鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名が見送られ、ウクライナとの関係が悪化しました。

その後、トランプ政権がウクライナへの軍事支援や軍事情報の共有を一時停止したことが明らかになりました。

こうした中、4月、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇の葬儀にあわせてバチカンでトランプ大統領とゼレンスキー大統領が再び会談しました。

トランプ大統領はこの会談を評価する一方、ロシアへの失望を表明しました。

その後、トランプ大統領は、ロシアがウクライナへの攻撃を継続し、戦闘の終結が実現しないことに、次第にいらだちをつのらせました。

先月には、「非常に失望している。プーチン大統領は停戦するつもりはない」とか「彼からはたくさんのでたらめを浴びせられている。彼はいつも感じがよいが、結局のところ、意味がない」と不満を示していました。

そして、トランプ大統領は、ウクライナに対してNATOの加盟国を通じて防空システム「パトリオット」を含む兵器を供与すると表明しました。

さらに、ロシアが停戦に応じなければ、ロシア製品を購入する国々に対し2次関税を課す考えを示し、その後、その期限を今月8日までとする方針を表明していました。

その期限の当日、トランプ大統領は、SNSへの投稿で、今月15日にアメリカのアラスカ州でプーチン大統領と首脳会談を行うことを明らかにしました。

対面での米ロ首脳会談は、2021年6月にバイデン前大統領がスイスのジュネーブで行って以来で、ロシアによるウクライナ侵攻後は初めてです。

トランプ大統領は今回の会談を「ロシアの出方をうかがう会談」と位置づけ、プーチン大統領に「戦争を終わらせなければならない」と伝えるとしています。

さらに、ゼレンスキー大統領を含めた3者会談の実現にも意欲を示していますが、ホワイトハウスの報道官は、今月12日、首脳会談にゼレンスキー大統領は参加しないと明らかにしました。

トランプ大統領としては今回の会談によって、停戦に向けて事態の打開を図りたい考えです。

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