ペトラ・ジグムント駐日ドイツ大使と、ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使が「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」(1月27日)に際し、朝日新聞に寄稿した。全文は次の通り。

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 国連総会は、アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所の解放日1月27日を「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」と定めました。ホロコーストで命を奪われた600万人のユダヤ人、ナチス支配下で迫害された数百万の魂に追悼を捧げる日です。

 再建されたミュンヘンのシナゴーグ奉献式でドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、ホロコーストの記憶を守り、台頭する反ユダヤ主義に立ち向かうという歴史的責務を再確認しました。ユダヤ人が恐怖なく生きられる社会を実現する誓いを、すべての市民が体現するよう訴えました。

 2023年10月7日のテロ攻撃は、イスラエルと世界中のユダヤ人コミュニティーにとって重大な転換点となりました。拉致や殺害を伴う残虐攻撃は安全への信頼を打ち砕き、ドイツをはじめ、世界各地での反ユダヤ主義の急増を招きました。昨今(オーストラリアの)ボンダイ・ビーチで発生した死傷者を伴う襲撃事件はその現実を示す例です。ホロコースト後、国連承認のもとに樹立されたイスラエルは、ユダヤ人が二度と無防備なまま取り残されないという理念に基づいています。

 一方歴史は、暗い時代にあっても道徳的勇気が示され得ることを教えています。1940年、リトアニアで日本の外交官・杉原千畝(ちうね)は命令に背き、ユダヤ人難民に数千通の命のビザを発給しました。今日その子孫4万人以上が世界各地に生きています。彼の精神は広島県福山市のホロコースト記念館に受け継がれ、毎年1月27日には追悼と尊厳への誓いが新たにされています。

 社会全体で歴史認識が薄れる中、ホロコーストの特異性と普遍的教訓の双方を理解する教育が不可欠です。偏見がジェノサイドへ至る過程を学ぶことは、民主主義と法の支配を支え、政治やオンライン空間での情報操作にあらがう批判的思考を育みます。アジアにおいてもホロコーストと杉原の行動は、激動の時代における選択を考える指針となっています。

 ホロコーストの記憶は過去だけでなく、現在と未来に関わるものです。記憶継承は反ユダヤ主義や否定に対する防壁です。これは世界共通の課題であり、日本各地での取り組みも含め、歴史に向き合うことは、多様性と寛容を重んじる世界を築く機会となっています。

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 ペトラ・ジグムントは駐日ドイツ大使、ギラッド・コーヘンは駐日イスラエル大使です。コーヘン大使は2005年、国連イスラエル政府代表部に赴任中、1月27日を「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」と定める取り組みに関わりました。

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