
日本人を狙う特殊詐欺やSNS型詐欺の被害額は2025年に計3241億円(暫定値)に上り、前年比1.6倍に増えたことが分かった。東南アジアの詐欺拠点では30万人が活動しているとみられ、被害は米英も深刻だ。日本では特殊詐欺の被害が00年代から広がり、警察には捜査手法の蓄積がある。海外当局との連携強化が被害抑止のカギになる。
警察庁は12日、25年の犯罪情勢を公表した。架空の投資に誘い込む「SNS型投資詐欺」と恋愛感情につけこむ「SNS型ロマンス詐欺」の被害額は計1827億円。警察官をかたるなどの特殊詐欺被害は1414億円でいずれも過去最悪だった。

2つの手口を合計した被害額は3200億円を超え、24年(1990億円)から6割増えた。個人の金融資産がだまし取られる事件が多い。日本の1世帯あたりの平均貯蓄額は1984万円(24年)で、約1万6000世帯分が1年で犯罪組織にわたった計算になる。
被害が増え続ける大きな要因は、海外組織の増大だ。特に東南アジアの国境付近が詐欺ビジネスの一大拠点となっている。
米シンクタンクの米国平和研究所による24年の報告書によると、カンボジア・ミャンマー・ラオスを通るメコン川周辺地域には詐欺に関わる労働者が約30万人いるとみられる。犯罪組織は年間390億ドル(約6兆円)を得たと推定されるという。
3国の国境付近はかねて、違法カジノを運営する組織が活動していた。近年になって手法を詐欺に変えたとみられ、電話やSNSでだます実行役らを日本などから集めている。カンボジアでは詐欺拠点と化したカジノやホテルが確認された。
国境付近は中央政府の権限が及ばず、警察庁幹部は「法執行機関の監視が届きにくい『空白地帯』だ」とみる。米国平和研究所はこの地域について「現代最強の犯罪ネットワークへと進化しつつあり、世界の安全保障を脅かしている」と警告した。

犯罪組織は日本を含む先進国を標的としている。米国では24年の投資詐欺被害が57億ドル(約8800億円)に上り、英国も同年に11億7000万ポンド(約2400億円)の金融詐欺被害があった。台湾や韓国も脅威にさらされている。
被害を抑止するには拠点の摘発が欠かせない。日本の警察は先導役になり得る。
特殊詐欺は00年ごろに日本で出始めた「オレオレ詐欺」を源流に様々な手口に変化した。だます役や現金の回収役など役割を分ける組織的詐欺の被害は、まず日本を含む東アジアで顕在化した。警察は国内の容疑者への捜査でノウハウを蓄積してきた。
警察庁は25年、幹部をタイやカンボジアなど4カ国に派遣して現地の警察幹部と対応を協議した。同年12月には東京で東南アジアを含む14カ国が参加する詐欺対策会議を開き、最新の手口などを巡る情報を共有した。
成果も出始めている。25年にはマレーシア・日本・台湾の捜査当局による共同捜査で、クアラルンプールの拠点で活動していた詐欺グループ10人を逮捕した。
国際刑事警察機構(ICPO)でも勤務した棚瀬誠・元警察庁サイバー捜査課長は「国際捜査は相手国の実質的な協力をいかに引き出せるかが重要だ」と語る。「日ごろから顔が見える関係を構築し、状況に応じて迅速に連携できるようにする必要がある」と強調した。
刑法犯4年連続増の77万件、コロナ前を上回る

2025年の刑法犯認知件数は前年比4.9%増の77万4142件となり、4年連続で増加した。認知件数は新型コロナウイルス流行下の21年に戦後最少の約56万8千件となったが、行動制限が緩和された22年から増加に転じた。25年はコロナ前の19年(約74万9千件)も3.4%上回った。
警察庁は治安情勢について「厳しい状況にあり、数年間の情勢を注視する必要がある」としている。
サイバー犯罪も多発している。インターネットバンキングの不正送金被害額は約102億4千万円で、前年比17.9%増加し過去最多だった。金融機関をかたる電話で企業の口座情報を盗み、容疑者側の口座へ不正送金する「ボイスフィッシング」も増えた。
アサヒグループホールディングスやアスクルが攻撃を受けたランサムウエア(身代金要求ウイルス)の報告件数は226件だった。22年以降は200件前後の高水準で推移している。

警察庁が25年10月に5000人を対象に実施したアンケートで、この10年間で日本の治安が「悪くなった」「どちらかといえば悪くなった」と答えた割合は79.7%を占めた。24年から3.1ポイント上昇し、犯罪の増加を受けて体感治安も悪化している。
【関連記事】
- ・警察官「闇バイト」潜入捜査、25年は13件 強盗・詐欺巡り5人逮捕
- ・「あなたに逮捕状」は詐欺 偽警察官が被害者を犯行に加担させる
- ・マネロンに悪用の銀行口座、50万円で売買も SNS通じ高値で誘う
「日経 社会ニュース」のX(旧ツイッター)アカウントをチェック 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。