北朝鮮は10月10日、朝鮮労働党創建80年を迎える。80年近く、独裁体制を維持してきた北朝鮮の「ロイヤルファミリー」の実態はどうなっているのか。

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金正恩・朝鮮労働党総書記の主な家族関係
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権力に求められる「血筋」

 Q 北朝鮮の最高指導者になるには何が必要なのか。

 A 北朝鮮は「白頭山血統(ペクトウサンヒョルトン)」と呼ぶ血筋を強調している。金正恩(キムジョンウン)氏は建国の父・金日成(キムイルソン)主席の血筋だから権力を握る資格があるという意味だ。

 Q 最高指導者は世襲されているのか。

 A 金日成主席の息子、金正日(キムジョンイル)総書記への権力継承の際、世襲を疑問視する声があった。当時は「優秀な後継者がたまたま息子だった」という論法を使った。建国から80年近く経ち、今では金日成一族を支持しない勢力が一掃されており、世襲が当然視されるようになった。

 Q 同じ白頭山血統内の権力争いはなかったのか。

 A 金日成氏の実弟、金英柱(キムヨンジュ)氏は一時、朝鮮労働党組織指導部長だったが、金正日氏との権力争いに敗れ、1974年ごろから、党政治局員に就任する93年12月までの間、地方で幽閉(ゆうへい)生活を送ったとみられている。金正日氏の異母弟、金平一(キムピョンイル)氏も79年から2019年までチェコやポーランドなど欧州諸国を転々とした。19年に帰国した後の消息は伝えられていない。

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朝鮮労働党中央委員会拡大総会で演説する金正恩(キムジョンウン)総書記。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信

権力闘争 極端な手段を選んだ金正恩氏

 11年末に権力を継承した金正恩氏も13年12月、父の最側近だった叔父の張成沢(チャンソンテク)元国防副委員長を「国家転覆陰謀行為があった」として処刑した。17年2月には、異母兄にあたる金正男(キムジョンナム)氏がクアラルンプールの空港で暗殺され、北朝鮮当局の組織的な関与が浮かび上がった。

 金正恩氏が公式活動を始めたのは10年9月で、権力継承までの活動期間が短く、人脈が少なかったことが疑心暗鬼(ぎしんあんき)を生み、処刑・暗殺という、幽閉よりも極端な結果を生んだと言われる。

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2025年9月4日、北京での中朝首脳会談に向かう北朝鮮の金正恩総書記(中央)。後方右の白い服の女性が金与正氏=朝鮮中央テレビの映像から

 Q 兄妹との関係はどうか。

 A 金正恩氏と実妹の金与正(キムヨジョン)氏、実兄の金正哲(キムジョンチョル)氏の3人は金正日氏と高英姫(コヨンヒ)氏の間に生まれた。3人兄妹は、この婚姻を認めない金日成主席に面会できないなど不遇の日々を送り、結束力は強いと言われる。現在、白頭山血統で公職に就いているのは金正恩氏と金与正氏の2人だけだ。

勢いを失う「金正恩氏の子ども3人説」

 Q 金正恩氏の子どもは何人いるのか。

 A 韓国の情報機関、国家情報院は12年末から13年ごろに生まれたジュエ氏と、17年ごろに生まれた第2子がいるとみている。金正恩氏と妻の李雪主(リソルチュ)氏の結婚は12年ごろだったとみられている。

 かつては、10年ごろに生まれた第1子の男子が別にいるという分析もあった。国情院は金正哲氏が11年2月に訪れたシンガポールや15年5月に訪れた英国で、男子用と女子用の玩具を購入したという情報から、「3人兄妹説」も選択肢に入れていたが、「第1子の男子」が確認されたことはなく、最近では「根拠が薄い」(日本政府関係者)とみられている。

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2025年9月5日午後、中国訪問を終えて平壌に到着した北朝鮮の金正恩総書記(中央奥)。朝鮮中央通信が伝えた=朝鮮通信。金正恩氏の右に列車の内部から外をのぞく、「キム・ジュエ」と呼ばれる娘の姿が写っている

 Q 金正恩氏は今後も権力を維持できるのか。

 A 北朝鮮の最高指導者は従来、「思想」「(党や政府の幹部らへの)贈り物」「暴力」の三つで権力を維持してきた。建国から80年近く経って共産主義の理想は形骸化し、心から信じる幹部はいないとみられる。金正恩氏も訪中の間、高級腕時計を身に着け、高級車に乗っていた。国際社会による制裁強化や長い孤立政策から、幹部に配る贈り物も漸減傾向にある。幹部は逆に、指導者からの突然の資金供出の指示に備える必要があり、賄賂などが蔓延(まんえん)する現象を招いている。

 金正恩氏は最終的に権力を維持するため、暴力に頼る傾向が顕著だと指摘されている。韓国政府は、北朝鮮で24年ごろから公開処刑の数が急増したと分析している。

<おことわり>当初配信した記事にあった「金正恩・朝鮮労働党総書記の主な家族関係」の図で、金正恩氏の妻の李雪主氏に「処刑」と記載していましたが、誤りでした。処刑されたという情報はなく、李氏は存命とされています。記述を削除し、正しい図を掲載しました。

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