
愛知県豊明市がスマホなどの適正使用を条例化した背景には、子どものネット依存に対する危機感がある。市内では、不登校の子がスマホを長時間使用することで昼夜逆転の生活に陥るケースが確認されているという。
こども家庭庁の2024年度調査では、ネットを利用している小中高生(10歳以上)は98・2%に上り、平均利用時間は約5時間2分で過去最長を更新。使用機器はスマホが75・4%と最多だった。
一方で、子どもの睡眠時間も減っている。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド」では、推奨睡眠時間を小学生は9~12時間、中高生は8~10時間と設定している。
しかし、理化学研究所と東京大の研究グループが小中高生約7700人を対象に行った24年調査によると、学年別の平均睡眠時間は小学6年が7・90時間▽中学3年が7・09時間▽高校3年が6・45時間――で、いずれも推奨時間の下限に達していなかった。

こうした現状を受け、ネット利用を制限する動きは国内外で起きている。
香川県は20年、ネット・ゲーム依存症対策条例を施行。18歳未満のゲームの使用を平日60分、休日90分を上限とし、スマホなどの使用を午後10時まで(中学生以下は午後9時まで)を目安とするよう保護者に努力義務を課した。
オーストラリアでは交流サイト(SNS)事業者に対し、16歳未満のアカウント作成を禁じる法律が今年12月に施行される。X(ツイッター)やインスタグラム、YouTubeなどが対象で、違反企業には最大4950万豪ドル(約48億円)の制裁金が科される。
フランスでも23年、保護者の同意がない15歳未満の子どものアクセスを制限するようSNS事業者に義務づける法律を制定。マクロン大統領はさらに、15歳未満のSNS利用の禁止に意欲を見せている。
民間団体「子どものネットリスク教育研究会」の大谷良光代表は、スマホの長時間使用が脳の発達に影響を与えるという研究結果を挙げ、「日本のネット依存に対する取り組みは諸外国に比べて進んでいない。自治体が条例という形で声を上げることは歓迎だ」と評価する。その上で「啓発活動や教育などソフト面の取り組みにも今後期待したい」と話す。
一方、スマホ依存問題に詳しい多摩大情報社会学研究所の井出草平客員教授(社会学)は「不登校問題には発達障害や精神疾患などさまざまな要素がある。スマホの使用時間を制限するだけでは、支援が必要な子どもや親に対し、本来必要なサービスが提供されず、実効性のない政策に向かってしまう副作用が懸念される」と指摘している。【式守克史】
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