関節のパキパキ音は、特に問題ないことが多いが、初期の関節炎の兆候である場合もある。専門家によると、関節の老化には、年齢だけでなく食生活、炎症、運動が大きく関わっている。(ILLUSTRATION BY RUSLANAS BARANAUSKAS, SCIENCE PHOTO LIBRARY)

立ち上がるたびに、膝からパキパキ音がするという人はいないだろうか。そのような人は決して少なくはない。

「このパキパキ音は、ごく一般的な現象です。医学用語では『クレピタス』と言いますが、正常な関節のしくみのせいである場合がほとんどです」と、整形外科医・整骨医で米M Bone and Joint社の社長ミッチェル・マクドウェル氏は話す。「これは、関節液の細かな気泡がはじける音、または動作に伴って腱や靱帯が微妙に動くときの音であることもあります」

ただし、音とともに、痛みやこわばりが感じられる場合は、より深刻な問題の兆候かもしれない。

関節の骨と骨の間にあり、なめらかで弾力性のあるクッションのような軟骨は、30代ごろからすり減り始めることがある。誰もが必ず関節炎(関節症)になるわけではないとはいえ、衝撃を吸収する層がなくなると、骨同士がこすれ合うようになり、痛みやこわばり、運動能力の低下などにつながることがある。年齢は重要な要因だが、最近の研究によると、生活習慣や食生活、炎症も影響しているようだ。

では、なぜ関節は劣化するのだろうか。また、生涯にわたってしなやかな関節を保つにはどうすればいいのだろうか。最新の研究からわかっていることを紹介しよう。

こわばりは老化の兆候?

英カーディフ・メトロポリタン大学の生物工学准教授であるバリー・L・ベントリー氏は、関節の摩耗は40代から50代にかけて目立ち始めると述べている。しかし、単純に年齢に比例するわけではない。

「実年齢、つまり生まれてから経過した年数は、生物学的年齢や蓄積された生理学的な損傷とゆるやかな相関関係しかありません。何を『正常』な老化とみなすかは、決して簡単に定義できないのです」とベントリー氏は説明する。関節の問題がいつ現れ、どのくらい重くなるかは、遺伝、過去のケガ、生活習慣がすべて関係する。(参考記事:「顔と目と舌の写真で「体の年齢」を判定、病気のリスクまでわかる」)

では、自然なこわばりと、そうでない症状はどう見分ければいいのだろうか。マクドウェル氏は次のように話す。

「ほとんどの人は、長い間座っていたときや朝起きたときなど、ときどき関節のこわばりを感じます。これは通常、動き始めれば解消されます。しかし、初期の関節炎を発症している人は、こわばりが長時間続いたり、活動によって悪化したりします」

2021年に医学誌「Rheumatology」に掲載された研究によると、朝起きてから関節のこわばりが1時間以上続く場合、それは関節炎の重要な兆候だという。マクドウェル氏は、腫れや痛み、うずきが続く場合は、早めに診察を受けることを勧めている。「早い段階の関節炎なら治療しやすいからです」

関節がすり減るのは年齢だけのせいではない

「変形性関節症につながる深刻な関節の摩耗について言えば、これまでの研究結果から、実年齢はリスクの半分でしかないことが示されています。残りの半分は、環境や生活習慣といった修正可能な要因が影響していています」とベントリー氏は話す。

別の要因のひとつが身体的なストレスだ。「関節に繰り返し過度な負荷をかけると、軟骨の摩耗や骨の変化につながるという証拠はたくさんあります」と氏は述べる。舗装された路面でのランニング、肉体労働、重いものを持ちあげるといった強い衝撃を伴う運動を十分な休養なしに行うと、関節に過度な負荷がかかることになる。

さらに、関節の老化に大きな影響を及ぼしているのが、軽度の慢性炎症だ。「加工食品中心の食生活、過度のアルコール摂取、喫煙により、生物学的老化が加速し、関節の損傷も大きくなります。こういった生活によって全身に炎症が起こり、軟骨の修復機能が損なわれて、組織の劣化が早まります」とベントリー氏は説明する。

40代以降の人が関節を守るには

ただし、うれしい知らせもある。たとえ関節が劣化し始めていても、それを守る行動をとることができる。「『遅すぎる』といって何もしない患者をたくさん見てきましたが、そんなことはありません」とマクドウェル氏は言う。「40代や50代になってからでも、小さな変化で大きな違いが生まれます」

ここでいう変化とは、関節に負荷がかかり過ぎないように健康な体重を維持すること、抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸(サケなどの脂肪の多い魚に含まれる)が含まれる栄養のある食生活を送ることなどだ。ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質は、酸化によるダメージから軟骨を守る。カルシウムやビタミンDは、骨や軟骨を強化する。

マクドウェル氏のおすすめは、ニコチンと過度の飲酒を控えることだ。ニコチンを摂取すると関節への血流が制限され、アルコールは体内の栄養素を奪う。

ウオーキング、水泳、太極拳、サイクリングなど、軽めの運動を定期的に行えば、関節に負担をかけずに体力や柔軟性を高めることができる。マクドウェル氏によると、筋力トレーニングも重要だ。筋肉が強くなれば、関節が安定し、股関節や膝などの重要な部分の衝撃を吸収できるようになる。

2021年に学術誌「Frontiers in Physiology」に掲載されたレビュー論文によると、定期的な運動によって変形性膝関節症患者の軟骨の劣化が遅くなり、炎症が減って、骨の量の減少も防げることがわかった。2019年に医学誌「Arthritis & Rheumatology」に掲載された研究によると、運動で関節リウマチを発症するリスクも減る可能性があるという。

「関節は車のタイヤのようなものだと考えるといいでしょう」とマクドウェル氏は言う。「重い荷物を積んで毎日500キロ走れば、タイヤはすぐにすり減ります。傷がついていたり、バランスが悪かったりすると、さらに摩耗が速くなります。一方で、車をガレージに置きっぱなしにすれば、タイヤの空気は抜けてベルトはたるみ、エンジンも動かなくなります。すべてはバランスなのです」

文=Ashley Mateo/訳=鈴木和博(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2025年7月14日公開)

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