
慢性腎臓病(CKD)の患者に便秘薬の一種を投与すると、腎機能の悪化を抑制できたとする結果を、東北大などの研究チームが米科学誌サイエンス・アドバンシズで発表した。腸内環境の改善に伴い、腎機能を回復させる物質が腸内で作られて腎臓に運ばれたという。
腎機能が健康な人の60%以下になったり、たんぱく尿などの異常が3カ月以上続いたりするとCKDと診断され、進行すると人工透析や移植が必要になる。患者は国内に約1500万人とされる。腎機能を改善する薬はなく、いかに悪化を防ぐかが課題となっている。
チームは、CKDに伴う便秘で腸内環境が悪化し、腎機能が低下しやすいことに着目。国内九つの医療機関でCKD患者計118人に対し、便秘薬「ルビプロストン」と、偽薬を投与する群とに分け、腎機能の変化を調べた。
その結果、便秘薬を投与した群では、少なくとも投与した半年間にわたって腎機能が悪化せず維持されることが分かった。血液と尿、便を解析すると、腸内で善玉菌が増加し、血中で「スペルミジン」という細胞の成長や機能維持に必須な物質が増えていた。
腎不全を引き起こすマウスを使い、スペルミジンが腎臓に及ぼす効果を調べると、腎細胞にあるエネルギーを生み出す小器官のミトコンドリアの機能を回復することが分かった。CKD患者の体内でも同じ仕組みで腎機能の悪化を防いだことが示唆された。
今後、数百人規模が参加する臨床試験で効果をさらに検証する。チームの阿部高明・東北大教授(腎臓内科学)は「中程度の患者に早期に投与するほど効果が大きいことも分かり、次の臨床試験では対象を絞りたい」と説明した。
今回の研究では、下痢を起こすと腎機能にかえって悪影響となるため、国内では市販されていない小容量のルビプロストンを米国から取り寄せて使用した。阿部教授は「まだ確立した医療ではないので、勝手な判断で腎機能の維持を目的に服用することは控えてほしい」と注意喚起する。【渡辺諒】
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