大盛況に終わった東京2025世界陸上。そのトラックを疾走し、アスリートの息づかいまで伝える迫力ある映像を撮影する「一輪車カメラマン」が話題だ。その正体はフランス出身のアルノ・ブリンさん(39)。普段は、マラソンや競輪などのスポーツの中継カメラマンを担当している。ブリンさんが、7年来の相棒だという電動一輪車(モノウィール)を巧みに操る撮影の裏側を語った。

「両手が空く」から始まった撮影スタイル「生中継に臨めるようになるまで3年かかった」
7年前にモノウィールと出会ったというブリンさん。「両手が自由になることに気づき、カメラを持って撮影できるのでは」と練習を開始。乗ること自体は数日で習得したが、カメラを担いで安定して撮影できるようになるまでには1年、自信を持って生中継に臨めるようになるまでには2〜3年の歳月を要したという。
アスリートに肉薄する没入感
彼の撮影の魅力は、なんといってもアスリートとの近さだ。「モノウィールでの撮影は、他の方法では難しいアスリートへの接近を可能にし、視聴者に大胆で没入感のある映像を届けることができる」と語る。実際、今大会でトラック内で撮影するカメラマンは彼ただ一人だという。

時速45km、体幹で操る相棒
彼が乗りこなすモノウィールは、価格にして約2500ユーロ(約40万円)。最高速度は時速45kmにも達する。操縦にハンドルはなく、体重移動がすべてだ。前に体を傾ければ加速、後ろに反らせばブレーキ。膝を傾けた方向に曲がるという、スキーにも似た直感的な操作が求められる。だからこそ両手が自由になり、カメラワークに集中できるのだ。長年の相棒は自身でメンテナンスしており、移動中に壊れてテープで補修したこともあるという。
安全こそが最優先
「撮影中は完璧なショットを撮ることと安全面に集中している」と語るブリンさん。2015年の世界陸上北京大会でセグウェイに乗車したカメラマンが男子100m・200mの世界記録保持者、ウサイン・ボルトに衝突した事故映像も見たことがあるといい、「最高のショットを撮ることはもちろん大切だけど、僕にとって安全が第一。少しでも不安や危険を感じるときは、撮影よりも安全を優先させる」と、その瞳にプロとしての強い意志を宿す。幸い、仕事の撮影中に事故を起こしたことは一度もない。
日本で自分がこれほど話題になっているとは知らなかった、と驚くブリンさん。「撮影中は競技に集中しているけど、ふと周りを見渡したときの観客の多さには圧倒されるね」。取材陣から贈られたステッカーを「子どものヘルメットに貼るよ」と嬉しそうに話す姿は、世界最高峰の現場で戦うプロでありながら、優しい父親の一面をのぞかせた。
【取材後記】
最後に私が走る様子も番組のデジカメで撮影していただいた。並走しているのが気にならないほど静かで、実際の映像も安定感があり非常になめらかだった。次回の世界大会でも、彼の撮影する迫力満点の映像が楽しみだ。


ひるおび 水曜日・スポーツ担当プロデューサー 東頌記
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