7イニング制の検討 主な理由は“暑さ対策”
投手力と先制点の重要性が高まるという指摘も
選手・監督からは賛否の声
高野連 事務局長「今後の議論の材料にしていきたい」
こうした中、実際に7イニング制の公式戦を実施することで、見えてくる課題などを検証しようと、国民スポーツ大会の「特別競技」として行われる高校野球で、初めて7イニング制が採用されました。
このうち硬式の部は、29日から大津市の会場で始まり、この夏の甲子園で優勝した沖縄尚学高校や、地元・滋賀の綾羽高校など全国の8チームが出場して、初日は1回戦4試合が行われました。
試合では、先発ピッチャーが7回を1人で投げ抜くチームがあった一方、小刻みな投手リレーでつなぐチームがあったほか、より重要性が増すと見られている先制点を取るために、序盤から手堅く送りバントを続けるチームがあるなど、それぞれが、7イニング制に合わせた戦い方を見せていました。
競技は、予備日を含む4日間の日程で行われ、決勝は10月2日に予定されています。高野連は、今回、出場した選手や監督に意見を聞いたり、競技の運営を検証したりするなどして今後の議論に生かし、ことし12月までに方針をまとめることにしています。
高校野球で7イニング制を導入するかどうか検討されているのは、年々、厳しくなっている夏の暑さへの対策が主な理由です。毎年8月に甲子園球場で開かれる全国高校野球では、これまでも選手や観客を、夏の猛暑から守るためのさまざまな対策が取り入れられてきました。
おととしからは、5回終了後に「クーリングタイム」を設けて、選手が試合中に休息を取れるようにしたほか、去年からは、気温が上がる日中の時間帯を避け、午前と夕方に分けて試合を行う「2部制」が、一部の日程で導入されています。
【メリットは】高野連は、こうした取り組みに加え、試合そのものを短くすることで選手たちを暑さから守ろうと、7イニング制を導入するかどうかの検討を、去年8月から本格的に始めました。高野連はこのほかにも7イニング制のメリットとして▽ピッチャーの投球数の減少などによる高校生のケガの予防や▽試合時間の短縮によって教職員の働き方改革が進むことなどもあげています。
【デメリットは】一方、大きなデメリットとしてあげているのが、選手の出場機会の減少です。9イニング制の場合、先発出場したバッターは途中交代がなければ、1試合に最低3回は打席に立つ機会がありますが、2イニング少なくなると、1試合で2回しか打順が回ってこない選手も出てきます。このほか、野球の試合展開は、選手たちに疲れが出てくる8回や9回に変わりやすく、7イニング制になると、こうしたドラマ性が損なわれるのではないかという指摘もあります。
高野連は、こうしたメリットやデメリットを踏まえて、ことし12月までに一定の方針をまとめることにしています。
国際大会や野球が盛んな多くの国では、高校生の年代の試合は、7イニング制が主流になっています。高野連の調査によりますと、野球が盛んなアメリカやドミニカ共和国、それにアジアの韓国や台湾などでは、高校生の年代の大会が、7イニング制で行われているということです。世界野球ソフトボール連盟も、18歳以下や23歳以下の国際大会などで、2021年から7イニング制を導入していて、主な理由としては「試合時間の短縮による競技のさらなる普及」をあげています。
ことし9月には、18歳以下のワールドカップが沖縄県で開かれましたが、高野連によりますと、出場した12チームのうち、少なくとも5つの国や地域では、すでに7イニング制が導入されているということです。この大会ではまた、指名打者制や、投球間に時間制限を設ける「ピッチクロック」なども採用されていて、序盤から全力を出して投球をするピッチャーや、短いイニングで次々と投手交代をする采配などが見られました。
また、最終の7回の攻防では、従来の9回の試合と同じように、ベンチも観客も大いに盛り上がっていました。12歳で海外に渡り、オーストラリア代表として大会に出場した寒川瑛太選手は「9イニングは体力的につらいが、7イニングだと最後まで全力でプレーできる。打席に入る回数は少ないが、その分、1打席に集中できている」と、7イニング制のメリットをあげていました。アメリカのコールマン・ボスウィック投手も「7イニングだと体力を気にせずに、全力でプレーできる」と話していました。一方、オーストラリア代表のジェイソン・ポスピシル監督は「7イニングだと、投手陣への負担は少なくなる」としたうえで「試合がかなり変わってしまうため、私は9イニングの伝統派だ」と話していました。
7イニング制では、投手力と先制点の重要性が、従来の9イニング制よりも高まるという指摘が、出場チームの監督などから出ています。高野連が甲子園で過去に行われた大会を分析したところ、7回で試合が終わった場合、ピッチャーの投球数は、全体でおよそ2割減るということです。このため、先発ピッチャーが完投しやすくなり、力のあるエースが1人いれば、比較的、選手層が薄いチームでも勝ちやすくなるという指摘も出ています。また、試合が短くなることで、先にリードしたチームが精神的にも有利になるため、力のあるバッターを打線の上位に置くことを検討したというチームも見られました。
沖縄尚学 比嘉公也監督「公立の高校などでも、1人いいピッチャーがいれば勝ち上がることも増えると思う。そういう意味では、大会全体としておもしろくなるのでは」
日大三 三木有造監督「試合展開が早く、先に点数を取られるとなかなか追いつけないと感じた。打席が多く回るようにするため、本来は3番や4番を打つ選手の打順を、上げることも考えた」
7イニング制で試合を行ったチームの選手や監督からは、導入を前向きに受け止める声があった一方、選手の出場機会の減少などを懸念する声も聞かれました。
仙台育英 吉川陽大投手(29日の試合で7回を1人で投げ切る)「7イニングの方が集中力を保ちやすく、自分には合っていると感じた」
仙台育英 佐々木義恭主将「序盤から集中して試合に入ることができ、最後まで足が止まらず戦えた。7イニング制は、自分に取っては間違いなくポジティブだ」
一方で、こんな意見も…。
尽誠学園 廣瀬賢汰投手「体力的にもまだ全然戦える中で終わってしまったので、7イニングは短く感じた。少しでも多く、仲間たちと野球をしたかった」
県岐阜商 藤井潤作監督「野球は7回から9回までが一番おもしろいと思っている。ピッチャーは大変だし、野手にもプレッシャーがかかるので逆転も起こりやすい。そこが無くなってしまうのはさみしい」
仙台育英 須江航監督「7イニングが良いとも悪いともまだ判断できない。まずは試してみて、選手たちがどう感じるかを聞いてほしい」と強調したうえで、「選手の出場機会が減るという懸念もあるし、1秒でも長く野球をやりたいという選手の思いをどう受け止めるかが大事になる」
高野連の井本亘事務局長は、初日の運営を終えたあとで取材に答えました。
井本事務局長は「実際にプレーした選手たちや、1日4試合を運営したスタッフなどの意見が重要なので、これから話を聞いたうえで、今後の議論の材料にしていきたい」と話しました。そのうえで「7イニング制だけでなく、指名打者制なども含めて、選手たちが野球に打ち込める環境を考えていくことが重要だ。少子化が進んでスポーツの選択肢が増える中、野球を選んでもらうために何をすべきかを引き続き考えていきたい」と話していました。
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