プロ野球への登竜門、ドラフト会議(23日)が迫る中、吉報を待つのは社会人野球の名門・ENEOSの村上裕一郎(24)。持ち味の長打力を生かし、社会人1年目の昨年は最多本塁打王に輝いた社会人屈指のスラッガーだ。愛媛・八幡浜市のみかん農家に生まれた村上は、幼い頃から両親や祖父母らと共に畑で汗を流してきたという。愛媛の土地で培ったパワーを武器に夢の舞台を見据える。

パワーの原点は“みかん畑”と“竹バット”

保育園児の頃からみかんの収穫を手伝っていた村上。みかん栽培は体力的にもハードな仕事で「大変でキツい。とにかく足が疲れる」と語る。秋から冬にかけての収穫期には、山を切り開いた段々畑でカゴ一杯に収穫したみかんを、坂を上り下りしてトラックに積む作業を繰り返す。村上は「山道を走ったり、重いカゴを持ち運ぶことでパワーがついた。手伝いで鍛えられたかもしれない」と“みかん畑仕込み”の体の強さが今の自分を支えていることを実感している。

さらに小学校2年生でソフトボールを始めた村上は、祖父が山で切ってくれた竹をバットにして毎日素振りに励んだ。2mほどのお手製の“竹バット”は村上が自ら要望したもの。そんな村上を母・亜由美さんも「努力家」と語る。毎日家の周りのみかん山を走り、ある時は近所の人から「イノシシいるから逃げろ!」と言われても走るのをやめなかった。夏休みには甲子園を欠かさずチェック。野球に関する漫画や本をよく読み、野球ノートをつけていたという。

幼少期の村上選手

規格外のパワーに金属バット禁止も

地元の中学校では軟式野球部に所属するも部員はわずか8人。隣中学校との合同チームで決して恵まれた環境ではなかった。高校は地元の学校で進路希望を出していた村上だが、進路変更の期限直前で本当の意思を口にした。「宇和島東高校に行きたい。宇和島東高校で甲子園を目指したい」。『必勝』ハチマキと共に猛勉強の末、念願の合格を果たした。

宇和島東ではエースで4番という目標があったが野手に転向。ウエイトトレーニングを取り入れたこともあり、長打が増えたという。練習ではグラウンドに設置された98mのネットを越えてしまうほどの規格外のパワーに、金属バットの使用が禁止されたこともあった。その長打力を武器に3年夏は「4番センター」で全試合にスタメン出場、愛媛大会を制し甲子園の切符を掴んだ。村上家は自費でバスを用意し、地元の人たちを招待。大応援団で甲子園まで駆けつけ、裕一郎の高校最後の夏を見届けた。

大学は声がかかった九州共立大に進み1年からベンチ入り。福岡六大学野球リーグでは3年春、「5番ライト」に定着すると秋には打率.441、リーグトップの4本塁打でベスト9を初受賞、侍ジャパン大学日本代表の候補入りを果たした。その後、社会人野球の名門・ENEOSに入社。1年目からライトでレギュラーの座を獲得すると都市対抗1回戦の東海理化戦では東京ドームレフト上段に、打球速度174㎞の驚愕の2ラン本塁打を放ち鮮烈な印象を残した。同年9月には侍ジャパンU-23代表に選出され、WBSC U-23ワールドカップで2大会連続優勝に貢献。強肩・俊足も兼備し、アマチュア野球界有数の外野手に成長した。


「生きがいと言われたので」家族の応援を背に吉報を待つ

村上選手


村上家の長男である裕一郎は中学時代に祖父母から「いずれはみかん農家を継いでほしい」という話をされたことも。それでも大学進学以降は家族みな「好きなことをやりたいようにやれ」と応援してくれるようになった。母方の祖父母は大学のリーグ戦も愛媛から福岡まで毎週応援に駆けつけ、社会人になってからも変わらずその応援は続いている。「特にじいちゃん、ばあちゃんにはプロで活躍している所を見せたい。『生きがい』と言われたので、長く活躍すれば長生きしてくれると思う」と家族の存在こそが村上の原動力だ。

ドラフト候補にまで成長した息子に母・亜由美さんは「一言で言えば信じられません。本当に我が子か?と思うほどです。このように注目されながらこの一年平静な心境で挑む事ができたのか…と気にはなってますが、大会とかで会うといつもの笑顔なので、メンタルも強く成長したなと思います。私たちには計り知れない努力をしてきたと思います」と話した。

大学3年の秋季リーグ戦では亜由美さんの誕生日当日、バックスクリーンに特大ホームランを放ち、ホームランボールというプレゼントを贈ってくれたこともあったそう。「どの球団でも行きたい!プロ野球選手になりたい!という本人の意向を直接聞いたので、裕一郎の努力が報われるのを誰よりも願ってます」と息子の背中を押す亜由美さん。どんな環境でも前を向き、みかん畑で鍛えた強靭な体と心で駆け上がってきたスラッガーが家族の応援を背にプロの世界へ挑む。

■村上裕一郎(むらかみ ゆういちろう)
2001年6月14日生まれ。愛媛・八幡浜市出身。右投右打。身長185cm、体重94㎏。小学2年生でソフトボールを始め、保内中では軟式野球部に所属。宇和島東高校では3年夏に甲子園出場。九州共立大学では3年春に全日本選手権、同秋に明治神宮大会に出場した。ENEOSに入社後は1年目からレギュラーの座を獲得。都市対抗、日本選手権、JABA主要11大会で打率.375、本塁打5、打点11の成績を残し、最多本塁打賞を受賞した。特技は中学3年まで習っていた習字と水泳。好きなみかんの品種は「せとか」。

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