プロ野球オリックス・バファローズのスカウト、岡崎大輔さん(27)は上司から「自分が欲しいと思う選手を言ってきてくれ」とシンプルに伝えられている。2022年ドラフト1位の曽谷龍平(白鷗大)、24年1位の麦谷祐介(富士大)を担当。2人ともほれ込んで、1位指名に至った。

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 「ホームランを20本以上打っていないとだめだとか、一塁駆け抜け4秒0を切っていないとだめだとか、もちろんそういうのはないです。何がいいのか言語化できなくていいんです。もう全部が好きだ、でいいんですよ」

 スカウトは基本的に1人で行動する。現場に行って、選手を見て、報告書を書く。その生活も4年目を迎えた。「移動や体力的なものは大変ですけど、野球をやっている選手の夢をかなえられる架け橋になる仕事。そういう仕事をやってほしいと球団に言われてうれしかった」と声を弾ませる。

 自身は花咲徳栄(とくはる)(埼玉)の内野手として、2年夏から3季連続で甲子園に出た。実力に自信はなかったというが、「まさかまさかの指名をいただいて」。2016年のドラフト3位でオリックスに入団した。しかし、1軍で結果を残せず、5年目の終わりに大阪市の舞洲にある球団施設へ呼び出された。

 福良淳一ゼネラルマネジャーから戦力外であること、そして、「会社に残ってくれないか」と言われた。約1週間後、数ある職種の中からスカウトになることが決まった。当時23歳、異例の若さだった。

 スカウト1年目の22年、最初の担当エリアは北関東。前任者から選手リストを引き継いだ。この選手は見ておいた方がいい、この選手は上位候補、という記載もある。一番上のランクだったのが、白鷗大の左腕投手、曽谷龍平だった。

 4月の公式戦で球速を測ると150キロが出ていた。「いまプロで、左で150キロを投げられる投手は何人いるんだろう」。スライダーやフォークでも空振りの山を築いていた。もし自分が現役選手でも曽谷を打てないと思った。

 プレーだけで評価は決まらない。「野球に没頭できる性格の選手が、プロでは最終的に残っていると思うので」。入団同期だった山本由伸(ドジャース)もそうだった。

 白鷗大の監督やコーチ、マネジャーらに曽谷について、「勉強はがんばれていますか」「オフの日は何をしていますか?」と取材した。その結果、自信を持って上司にアピールできた。曽谷は今季8勝を挙げ、11月に韓国代表と試合する日本代表のメンバーに選出されるまでになった。

 オリックスの場合、1軍で手薄なポジションを埋めるような選手の探し方を求められないという。「ほれた選手を推薦すると、上司が評価をしに来てくれます」

 岡崎さんが昨年、強く推薦したのが外野手の麦谷。試合でのアグレッシブな走塁に目がいった。「地面を蹴る力、腕を振る力、足を引きつける力がすごくたけていた」。そしてスター性を感じた。「ぼーっと野球を見ていても、いい選手には視線が集まるんですよ」

 岩手県花巻市の富士大へ練習を見に行ったときだ。外は大雪。室内での打撃練習で麦谷の周りには自然と選手が集まり、笑いが起こっていた。「練習をふざけているわけではなく、楽しそうにする。野球を心から好きなんだろうなと見えました」

 担当した選手が入団すると、会う機会は少ない。しかし、2軍落ちやケガをしたときは「気持ちを落とさないように、方向性だけは見失わないように」と、こまめに連絡する。

 麦谷が6月に一塁へのヘッドスライディングで左手薬指を骨折したときは、一塁へ走る時と盗塁の際は、頭から滑り込むのはやめるよう勧めた。「プロ野球選手はケガだけは絶対しちゃいけないので」。担当した選手を見守りつつ、今日も心から「欲しい」と思える原石を探している。

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