昨季まで残留争いを繰り広げていた柏レイソルが、なぜ今季は優勝争いができたのか。
「ずっと、攻撃的なサッカーをしたい、という理想はあったんです」
強化トップの布部陽功(たかのり)フットボールダイレクター(FD)は言う。

2023年も、24年も、チームを立ち上げたときには同じような理想を描いた。
でも、うまくいかなかった。
23年は序盤で勝てなくなり、チームのやり方を変えた。24年も成績が出ず、継続できなかった反省が残った。
改めて考えた「レイソルのサッカー」と適任の監督
昨季の終盤、改めて「レイソルのサッカー」とは何かを考えたという。
「今のJリーグの主流は、サンフレッチェ広島やヴィッセル神戸、町田ゼルビアなど、みんな『縦に速い』。手数をかけずにシュートまで持ち込むサッカーが主流。自分たちは何をしたいか。今度はぶれず、方針を変えないサッカーをやらないといけないと思った」
そのための監督は誰が適任なのか。
そう考えたときに「リカルド一択だった」と布部FDはいう。
徳島ヴォルティスや浦和レッズで指揮をとったスペイン人のリカルド・ロドリゲス監督は独特なサッカーをすることで知られる。

布部FDが京都サンガで指揮を執っていたころ、ロドリゲス監督が率いる徳島と対戦した。「選手がすごく生き生きとしていて、良い監督だと思った」
監督が過去に指揮したクラブの関係者への聞き取りも行い、さまざまな情報を集めた。
柏の監督就任をオファーするときは「中途半端ではダメだと思った」。
口説き文句は「新しいレイソルを作ろう」
口説き文句は「新しいレイソルを作ろう」。選手を入れ替え、主導権を握る、攻撃的なサッカーへの転換が始まった。
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今季に向けたシーズンオフ。編成で意識したのは「リカルドに合う選手を獲得する」ことだった。
休みの日でも、毎日のように監督と電話をした。
大きなテーマは二つ。
一つは「計算ができる」選手の獲得だ。
ロドリゲス監督が志向するポジショナルプレー(選手が適切な位置に立ち、優位性を作り出すこと)には、いくつかのルールがある。そうした動きをすぐに習得し、浸透できるかが鍵になると考えていた。
「昨季までうちの平均年齢はものすごく若かった。ただ、若い選手にはまだ未知の部分がある」
浦和時代にロドリゲス監督の下でプレーし、今季もチームの中心となった小泉佳穂の獲得は必須だった。J1屈指の足元の技術を持つGK小島亨介らもそろえ、リカルド・スタイルの浸透をはかった。
監督からの要求「エゴイスティックな選手はいらない」
もう一つ、監督から要求があった。「エゴイスティックな選手はいらない」
布部FDは「個で戦うのではなく、チームでまずは戦う、と。だからこそ、選手をとる際に人間性を見るようになった」。
パス一つの蹴り方をとっても、雑にならず丁寧に蹴っているか、控えでも腐らないかに目をこらした。
ときに自己主張も必要なプロの世界で、賛否は分かれるかもしれない。
ただ、監督とも何度も話し合い、貫いた。
「我々のクラブは(資金が豊富な)ビッグクラブではない。そのなかでどう戦うかが、大事」。守備がおろそかになりがちな外国人ストライカーに投資するよりも、チームのために走れる選手をそろえた。

今季の開幕前、新加入は14人。選手を獲得する際、他クラブと競合したケースもあった。
それでも布部FDは「目指すサッカーが明確になったことで、選手もイメージしやすくなり、レイソルでサッカーをしたい、となってくれた」。
忘れられない光景
忘れられない光景があるという。
23年5月。なかなか勝てない時期に、最下位の横浜FCに0―1で敗れた。
本拠の観客席に居残ったサポーターに囲まれ、説明を求められた。
「叱責(しっせき)されたり、ブーイングを浴びたりして、怒られるのかと思った」
だが、違った。
「対話をしてくれたんです。本当にサッカーが好きで、最後は『応援している』と言ってもらって、拍手もしてくれた。そのときに『レイソルのサポーター、すごいな』と。これなら今のサッカーを作れるかもしれない、と思ったんです」
今季、パスが通って相手の守備を崩すたびに、本拠の「日立台」が揺れるような歓声に包まれた。
サッカーを理解し、支えてくれる仲間がいる。そのことに感謝したかったという。
「今季、覚悟してチーム作りを進められたのは、あのとき応援してくれたサポーターのおかげ。僕は全てが今につながっていると思っています」
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