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 ラグビー界で長年の課題となっている、中学生世代の競技人口の減少。楕円球にふれるための受け皿が圧倒的に少ないと言われるこの世代に、注目を集めるチームが「浦安D-Rocksジュニア」だ。中学生の憧れの舞台「太陽生命カップ」に3年連続出場。今年優勝候補の一角と言われる。しかし、コーチが見据えるのは、さらにその先だった。

対照的な2人のキャプテン

 千葉県浦安市を本拠地に、日本最高峰の舞台「リーグワン」で戦う、浦安D-Rocks。2022年、この新チームのリーグワン参入とともに、地元で活動していた「浦安ラグビースクール中等部」は、浦安D-Rocksジュニアとして新たなスタートを切った。

浦安D-Rocksジュニア 大内和樹ヘッドコーチ この記事の写真は10枚 浦安D-Rocksジュニア
大内和樹ヘッドコーチ

「元々私自身が、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安でコーチをやらせていただいたりですとか、子どもたちと一緒に成長することに対しては強い関心を持っていましたので、立ち上げた成り行きで自分がヘッドコーチをやらせていただいてるという形ですね」 2面ある天然芝のグラウンド

 現在、100人近くのメンバーが集まる浦安D-Rocksジュニア。人気の理由の一つに、設備の充実がある。練習を行うのは、トップチーム浦安D-Rocksと同じトレーニング施設。2面ある天然芝のグラウンドや、室内練習場など、国内トップレベルの施設でトレーニングを行なっている。

大内ヘッドコーチ
「ありがたいことにいろんな所にお住まいの方が応募いただいているので、気が付けば、いろんなところから集まっています」 選手
「埼玉県の伊奈町から来てます。2時間半かかっちゃう」

 間近に迫った中学生ラグビーの全国大会・太陽生命カップ。毎年9月に、茨城県水戸市で行われるこの大会は、「中学校男子」「ラグビースクール」「都道府県代表女子」の3部門に分かれる。D-Rocksジュニアは、ラグビースクール部門で今年3年連続3回目の出場を決めた。初出場だった2年前は7位、続く昨年は3位、今回は悲願の初優勝を狙う位置につけている。

“愛されキャラ”のキャプテン 山部湧樹選手

 今シーズン、D-Rocksジュニアを牽引(けんいん)するのは2人のキャプテン。1人は明るい性格で皆の輪の中心、ロックの山部湧樹選手(3年)。チームの愛されキャラだ。

 対照的に、もう1人のキャプテンは、ちょっとシャイなフルバック、武田直登選手(3年)。

ちょっとシャイなキャプテン 武田直登選手 「まだ苦手ですけど、家でもたくさんコメントとか親と練習して」

 人前で話すのが苦手な武田選手だが、キャプテンになったことで、驚くほど変化が起きていた。

「試合なると緊張は解けて、外から絶対に止めるって気持ちで声出してるので、試合では誰よりも声を出せる自信があります」

 家では見せない息子の姿に、父親はこのように話す。

「私もラグビー経験者ではないので、ラグビーのプレーの良し悪しとかはあまり分かりかねるんですけれども、プレーとかで声を出してるところは、すごく偉いというか、感心しております」 大内ヘッドコーチ
「今年の3年生では、皆で一緒にうまくなっていくっていう雰囲気を感じていたので。2人共同になってもらって、一緒にチームを作る形の方が今年には合うんじゃないかなというのをコーチ陣で話して、こういうふうにしてます」 広告 選手に預けるミーティング

選手に預けるミーティング

 正面から言葉で引っ張る山部選手。後ろからチームを動かす武田選手。2人の存在が、チームの両輪となっている。

山部選手
「自分がきつくて無理かもってなったときに、前向きに声をかけてくれるんで。めっちゃいい相方だなと思ってます」 武田選手
「(Q.けんかとかしないんですか?)山部の引っ張っていく姿勢のおかげで、けんかはしないです」

 この日は夏休み前の実践練習として、ワセダクラブ・ラグビースクールとの練習試合が行われた。太陽生命カップで優勝経験がある強豪だ。

大内ヘッドコーチ
「この1カ月間やってきたタックルがどれぐらいできるか」 山部選手
「成長したところを出せるように頑張りたいと思います」

 中学生ラグビーは、12人制で行われる。しかし、グラウンドは15人制と同じ広さ。そのためスペースが生まれやすい。

 青いジャージのD-Rocksジュニアは、そのスペースを利用し、ボールを素早く動かすアタッキングラグビーが信条だ。

山部選手のタックルも簡単にはずされてしまう

 D-Rocksジュニアが前半、先制トライを決める。勢いに乗るかと思われたが、フィジカルで上回る相手の突破力に苦戦。山部選手のタックルも簡単にはずされてしまう。この1カ月間強化してきたタックルの成果を発揮できない。3連続トライを奪われ、一時逆転を許す展開に。後半は立て直したものの、太陽生命カップに向けて課題が残った。

山部選手
「相手のでかい子とか強い子が入って走り込んできたのを受けてタックルしちゃって。そういうのが3回連続起きちゃって」

 試合後の反省会の輪にコーチ陣が入ることはない。

選手たちのみの反省会 大内ヘッドコーチ
「与えてしまうと彼らは考えなくなってしまう。こういう考え方をしてチームとして戦う、試合するということは日頃の練習で落とし込んでる。それに対して自分たちで振り返ってほしい。もっといろんな考えを持ってほしいろいう観点で、基本的には彼らにミーティングを預けてます」
「私もそうですし、他のコーチもそうですけど、大学でラグビーやってました、社会人ラグビーやってました、だからいいコーチになれることは絶対ない。ただ言えるのは、この時に何をやっていたか。だったら逆算して、中学校の時にどういうことを教えていけば、その後成長しやすいかはすごく意識してるんです」 客観的な観点から改善点を選手と共有

 長いスパンで選手の成長を考えるコーチング。翌週のミーティングでは、映像分析の結果を見せ、客観的な観点から改善点を選手と共有する。

 試合で、タックルというウイークポイントが露呈した山部選手はこのように話した。

「先週の課題がタックルだったので、前回の試合の修正点や次の試合までやることとか、試合のスケジュールを意識して練習します」

 ミーティングの後は、徹底的なディフェンス練習が行われた。

大内ヘッドコーチ
「自分自身で考えて気づいて、何かできなかったことに対してチャレンジしてみて、それができるようになる。この繰り返しが成長するという意味では面白い、楽しみに子どもたちが感じてもらえるかなと思ってます」

 ウイークポイントを克服すべく、必死に食らいつく山部選手。

「あんまりタックル得意じゃないんで。自分が変わるというか、ずっとこのまま悪い状況じゃなくてやっぱ自分から変わってやるんだっていう。チームの雰囲気を変えられたらなって思って練習しました」

 弱さを知って強さが生まれる。きのうできなかったことが、きょうできるようになる。ジュニアラグビーの醍醐味が、ここにある。

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トッププレーヤーによる特別レッスンも

 浦安D-Rocksジュニアの魅力の1つに、縦のつながりが挙げられる。D-Rocksが目指すのは小学生から大学生までの一環した支援。「浦安D-Rocks Youth Development Plan」と名付け将来を見据えた次世代の育成プログラムを実施している。

 D-Rocksアカデミーでは小学生を対象に、いろいろなスポーツを体験。ラグビーに限らず、隠れた身体能力や運動能力を発掘・育成するプログラムを展開している。

浦安D-Rocks
廣澤崇アカデミーコーチ

「このマルチスポーツプログラムでは、このGPSデバイスを使って、子ども達の成長の可視化をしています」

 走った距離や速度をデータ化することで、子どもたち自身が、目で見て成長を実感できる最新の練習法だ。

「足が速くなった。ラグビーで抜けるようになった!」
「陸上選手になって、金メダルを取りたい」

 シャイニングアークスやレッドハリケーンズで活躍した小泉将普及・アカデミーマネージャーは、理想の未来をこう語る。

「いろいろな動きを学びつつ、ラグビーチームではありますので、それを横目に見ている子どもたちが、ラグビーやりたいなと思ってくれたら、D-Rocksジュニアに入っていただく。ゆくゆくはD-Rocksの方に入ってくれるのがいい未来」 飯沼蓮選手(左)小西泰聖選手(右)

 そしてD-Rocksジュニアでも、この日は練習にリーグワンで活躍するD-Rocksの現役スクラムハーフ、キャプテンの飯沼蓮選手(25)、そして小西泰聖選手(24)がやってきた。

 トッププレーヤーによる特別レッスン、これも浦安D-Rocksジュニアの強さにつながっている。

トッププレーヤーによる特別レッスン 「教えてもらえて嬉しい」
「プロで戦っている技術を間近で教えてもらえるので、貴重な機会でうれしい」 同じチームとして 飯沼選手
「やっぱD-Rocksって名前がついてるし、同じチームとして少しでも手助けできたら嬉しい」
「D-Rocksに憧れを持ってくれて上手な子たちがD-Rocks入ってくれれば、一組織として、強くなると思うし、いい循環になる」

可能性が成長する方向へ

 この日行われたのは、チーム内マッチ。

 山部選手と武田選手、チームの軸となるキャプテンが二手に分かれ紅白戦を行うことで、チーム全体のレベルアップを図る。

武田選手
「山部君はフォワードとして良い選手なので、抜け出してきたら全部止めて、声でも圧倒できるように頑張りたいです」 山部選手
「いつも後ろからコール出してくれるけど、いないので、その分自分がディフェンスの時とか引っ張って行こうかなと」

 互いに頼っていた部分を、自らが担う。このチーム内マッチは、2人にとっても大きな試練となる。

 苦手だったタックルをものにし始めた山部選手、今では大きな声でチームを引っ張る武田選手。

 2人の成長がチームの勢いを加速させる。

 試合後は、いつものように選手だけでチームでミーティングが行われた。

武田選手
「去年、一昨年に比べて、少し弱いチームだったんで全国にも行けるか不安でしたけど、皆でチーム一丸となって、全国に向けて練習できたのでよかったです」 山部選手
「絶対に走り負けない。D-Rocksジュニア以上に細かくチーム練習とかアタックの練習してるところはないと思うんで、そういうとこのクオリティの違いを見せていきたいなって思います」

 そしていつも通り、選手同士のミーティングには口を出さない大内ヘッドコーチ。

「コーチが率先して勝ち負けじゃないですって言っちゃうのも、いまいちだなと思ってるんですけど、本音ベースでいくと、全く勝ちとか負けとかどうでもいいと思ってます。今まで戦ったことのないチームと試合をして、そのなかで得るものがあって、1試合1試合成長してほしい。これは全国大会だからといって変わるものではないと思ってます」

 決して「勝利至上主義」ではない。それぞれのラグビーを見て長所を引き出し、可能性が成長する方向へと導くだけ。その過程のなかで、最終的にどの目標に向かうかは、選手たちに委ねる。

山部選手
「(Q.あなたにとってラグビーの夢とは?)人としても選手としても、ラグビーを通して成長できたらなと思います」 武田選手
「まずは全国の優勝して、高校・大学でも活躍できる選手になって、そこでも花園優勝して、またD-Rocksに入って、活躍できるように頑張りたいです」

 子ども達の潜在能力を引き出し、その先に見る未来とは。楕円球を愛する少年少女が、真のラグビープレーヤーへと進化を遂げる瞬間。中学生ラグビーに新たな道を切り開く!

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