
前日銀総裁の黒田東彦氏が毎日新聞の取材に応じ、トランプ米政権の関税強化策について「米国の経済の実態に合わない」と批判した。米国主導でドル高是正に動いた「プラザ合意」から22日で丸40年。歴史が繰り返すように「第2のプラザ合意」がささやかれる今、通貨の秩序が揺らいでいる。「通貨マフィア」と呼ばれ、通貨政策を取り仕切る財務官も経験した黒田氏に今の世界はどう見えているのか。
「プラザ合意」は1985年、先進5カ国(日、米、英、仏、西ドイツ)がドル高是正に向けて政策協調した。71年のニクソン・ショックを機に固定相場から変動相場に移行していたが、プラザ合意後は一段とドル安が進み、日本はバブル崩壊後も円高に苦しんだ。
黒田氏はプラザ合意について「米国の自業自得で起きた。国際収支の赤字を正すために、ドル安へ導きたかった」と分析する。
世界各国に高関税をかけて貿易戦争を仕掛ける今の米国とプラザ合意当時の米国。黒田氏は「米国内の不満を解消するため」に動いているとの共通点を見いだす。一方で、巨大IT企業を中心に米国が世界経済のけん引役でもある現実にも触れ、「米国経済が弱かった40年前と異なり、今の米国は高い成長率を維持している。関税強化策をとる米国は経済の実態に合わない」と批判する。

関税策に次ぐ貿易赤字削減策としてトランプ氏がドル高是正に動くのか。市場は「第2のプラザ合意」を警戒する。ただ、今は協調介入でドルを誘導することが難しいことから、黒田氏は「そうした合意はもはやあり得ない」と実現性を否定。「トランプ氏は為替政策に代わって強硬な関税強化策を取った。今回のターゲットは中国だ」との見解を示した。
黒田氏は99~2003年に財務官となり、円高是正のために円売り・ドル買いの為替介入も実行した。13年からは安倍晋三政権下で日銀総裁に就任。23年に退任し、現在は政策研究大学院大シニアフェロー。【古屋敷尚子】
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