
新たな手法や副原料を使った新ジャンルの酒「クラフトサケ」を福島県南相馬市で醸造している「ぷくぷく醸造」(同市小高区仲町1)が、スタートアップ(新興企業)などが生み出す新規事業を審査する国内最大級のコンテストのアルコール飲料部門で優勝した。東京から移住して2024年11月に酒蔵を開いた立川哲之さん(31)は「酒造りを通じて浜通りのお米の評価を上げ、田園風景を取り戻したいと取り組んできた。そのお酒が評価されてうれしい」と喜ぶ。
立川さんは東日本大震災の被災地支援に学生時代からボランティアとして参加する中で、地域社会が大切に受け継いできた日本酒に引かれ、宮城県名取市閖上(ゆりあげ)の佐々木酒造店で復興を手伝いつつ修業した。小高で酒造りによる復興を目指して醸造家を探していた佐藤太亮(たいすけ)さん(33)と出会い、クラフトサケを醸造する酒蔵「haccoba(ハッコウバ)」を21年2月にオープンした。22年7月に独立し、東京電力福島第1原発事故で空き家となっていた物件をリノベーションして24年11月に念願の酒蔵を開設した。
今回は、9月1~4日に京都市で開催された「ICCサミット」に参加した。毎年2月に福岡市、9月に京都市で開催し、毎回500人以上が登壇する。経営者らが新規事業をプレゼンテーションして、投資家や、相乗効果を生み出す他企業との出会いによる成長機会を提供している。複数の部門のうち、ぷくぷく醸造は、世界に通用するアルコール飲料を選ぶ「SAKEアワード」に参加した。

SAKEアワードには24年2月に続いての挑戦で、前回は準々決勝で敗れた。今回は13社が参加。クラフトビール国内最大手「ヤッホーブルーイング」(長野県軽井沢市)や、副原料を加えて独自性を高めた「クラフトサケ」というジャンルを切り開いた杜氏(とうじ)の今井翔也さん(37)も参加する中、予選から決勝までの4戦全てを小高の米で醸したどぶろくで制した。審査員から「どれもとてもおいしかったし、福島で酒造りをする意義や思いも伝わって味を際立たせた」(起業家の坊垣佳奈さん)と高く評価された。
ICCサミットでは他に、地域全体の魅力をPRする部門「ローカル・コネクテッド」で、南相馬についてプレゼンした佐藤さんらが優勝して「2冠」を達成した。立川さんは「震災復興という文脈から離れたビジネス会議で浜通りが高い評価をいただいてうれしいし、希望になる」と話している。【錦織祐一】
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