2022年の無人月探査時に地球から43万キロメートルの地点に到達した宇宙船「オリオン」(NASA提供)

【ヒューストン=大平祐嗣、赤木俊介】米航空宇宙局(NASA)は23日、有人宇宙船で月の軌道を回る探査計画の概要を発表した。2026年2月にも宇宙船を搭載したロケットを打ち上げる。有人の月探査は1961〜72年に実施した「アポロ計画」以来。中国が月面着陸を目指す中、遅れてきた計画の挽回を急ぐ。

NASAは有人月面探査「アルテミス計画」を進めている。今回は22年の無人船の打ち上げに続く2度目の探査で「アルテミス2」の名称で実施する。NASAは宇宙飛行士4人を乗せた宇宙船を打ち上げる。宇宙船は10日間かけて地球と月の周りを飛んで帰還する。

宇宙飛行士が宇宙船のシステムを設計通りに動かせるかなどを確認するほか、二酸化炭素や水蒸気を取り除く生命維持装置の性能評価、緊急時の手順の練習などを進める。

2022年の無人の月の周回に続く計画で、成功を足がかりに27年半ばにはさらに有人で月面着陸を目指す。

有人での月探査は「アポロ計画」以来となる。月に到達することが目的の主眼だったアポロ計画と異なり、アルテミス計画は日本を含む国際協力による科学調査や人類を火星に送るといった次の宇宙開発をにらむ。

早ければ2月5日にも打ち上げが可能となる。ロケットの整備状況や月と地球の位置関係を勘案して4月までに実施する。

打ち上げに必要な大型ロケットには米ボーイングの「SLS」、宇宙船には米ロッキード・マーチンの「オリオン」を使う。宇宙船にはNASAの飛行士3人とカナダ宇宙庁(CSA)の飛行士1人が乗る予定だ。

米国はアポロ計画の時代には旧ソビエト連邦と宇宙開発を競ったが、現在は中国がライバルとなっている。中国は30年までに中国人初の月面着陸を成功させる計画だ。アルテミス計画は27年を目指しており、予定通りに進めば中国に先行できる。

23日、NASA探査システム開発ミッション本部のホーキンス副長官代理は「第2の宇宙開発競争で最初に月面に帰還することが求められている」と述べた。

アルテミス計画は再三遅れてきた経緯がある。当初第1次トランプ政権下の2019年には24年の月面着陸を目標としていた。その後オリオンなどの開発遅れや22年の無人探査を受けて耐熱シールドの見直しが発生していた。

遅れにより開発費が膨らみ予算を減らす動きもあった。25年5月に米政権が示した26年度のNASAの予算案ではコスト削減の一環で、SLSやオリオンの利用を取りやめ、月を周回する宇宙ステーション「ゲートウエー」を設ける計画を中止するとしていた。

ただ、その後7月に成立した減税・歳出法(OBBB)ではアルテミス計画の予算が確保された。中長期にわたるNASA向けの予算として約100億ドル(約1兆4800億円)盛り込まれた。予算期限は32年でSLSやオリオンの利用やゲートウエー建設に充てられる。

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