
ゲームを海外展開するための翻訳業務で生成AI(人工知能)を活用する企業が増えてきた。ゲーム市場の国際化で多言語対応の必要性が高まっているが、開発の後工程にあたる翻訳作業は短納期を求められ、翻訳者の負担は大きい。世界最大級のゲーム見本市「東京ゲームショウ2025」では、業界の裏方となる企業が新サービスを競った。
AIを使った翻訳サービスを手掛けるアルゴマティック(東京・港)のブースでは同社の技術「AlgoGames翻訳」を紹介した。Chat(チャット)GPTや「Gemini(ジェミニ)」といった大規模言語モデル(LLM)や自然言語処理のモデルを統合したAIエージェントを活用する。案件ごとに最適なモデルを選ぶことで自然で読みやすい翻訳ができる。
従来の人手に頼る場合、原文1文字あたり20〜30円程度の費用が発生する。大型タイトルを複数言語に展開する場合、翻訳費用が数億円規模に達することもある。翻訳者が1日に処理できる文字数は数千字と限られ、大作では作業が数カ月に及ぶのが一般的だ。
アルゴマティックの野田克樹執行役員は「これまで多くの人員を投入して進めてきた翻訳を、少人数で効率的に翻訳できるようにした」と強調する。
翻訳チームは10人程度だが、翻訳サービス開始から1年間で100本以上の翻訳を手掛けた。平均で翻訳費用を75%削減し、翻訳時間も5割以上短縮できたという。26年度は月に20〜30本の翻訳を目指す。今後、翻訳だけでなくゲームの不具合を見つける「デバッグ」や言語品質管理、シナリオ生成にもAIサービスを展開する考えだ。
ブースを訪れた中国のゲーム大手で翻訳を担当している男性は「こんなに翻訳時間を短縮できるのかと驚いた。どうAIを活用するかが今後の業界の焦点になるのでは」と語った。

ソフト不具合検査大手のデジタルハーツは、24年8月にゲーム専用のエンジン「ELLA(エラ)」を活用した翻訳サービスの提供を始めた。10年ごろから人手による翻訳サービスを提供してきたが、多言語翻訳の需要の高まりを受け、AIを活用したサービスの展開に踏み切った。
事前に設定したキャラクターの性格や、ゲームの世界観をもとに、5つの訳文の候補を提示し、翻訳担当者が最も適した訳を選んで編集する。ベースとなる翻訳文をAIが作ることで作業時間を4割以上削減した。デジタルハーツの筑紫敏矢社長は「ライトノベルや漫画などゲーム以外のエンタメコンテンツでも展開したい」と語る。
サービス開始から約80タイトルを手掛けた。現在は英語やフランス語など9カ国語に対応するが、今後はアラビア語などへの対応も検討する。

ゲームショウには海外企業も出展しており、中国語専門のゲーム翻訳を手掛けるミエトランスレーションサービスの担当者は「2年ほど前からAI翻訳の研究開発に取り組んでおり、コスト削減につなげたい」と話す。
AIの活用が広がる一方で、人間ならではの表現力や翻訳の品質で競争力を保つ企業もある。アクティブゲーミングメディア(AGM、大阪市)は、AIの活用を用語や文体の整合性の確認にとどめる。
イバイ・アメストイ社長は「販売先となる国の言語や文化、価値観だけでなく流行に精通した人材でないと違和感のない翻訳は難しい」と語る。
中国の調査会社QYリサーチによると、ゲームにおける翻訳サービスの世界市場は31年に38億ドル(約5700億円)と25年から6割以上増える見通しだ。グラフィックの向上などでゲーム開発費が高騰している。より多くの国で展開して収益を上げるためにも多言語展開の重要性は高まっている。いかにコストを下げつつ質の高い翻訳をするかが課題になっている。
ゲームのローカライズに詳しい東京大学の吉田寛教授は「内容を理解できればいいビジネス文書と異なり、翻訳の質はユーザーの没入感や体験の質につながる」と分析する。「AIを効率化のツールとして使う一方、人が仕上がりを確認するなど質の確保も重要だ」と指摘した。
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