
台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出により、九州経済圏で台湾の存在感が増している。台北駐福岡経済文化弁事処(福岡市)の陳銘俊処長が毎日新聞のインタビューに応じ、「日本は技術や人材面で台湾と協力関係を深めることが重要」と訴えた。
――台湾は今年の重点政策の一つに、台湾企業の九州進出の支援を挙げ、4月には拠点となる「台湾貿易投資センター」を福岡市内に開設しました。
◆台湾と日本は親近感を持ち合っている。歴史を振り返ると、海運や航空の事業を手がける「エバーグリーン」など台湾大手企業は、日本の協力があったから成功できた。半導体受託生産で世界最大手のTSMCが日本に進出した今、交流を加速させるチャンスだ。
――日本は1980年代に半導体市場を席巻しましたが、90年代以降、衰退しました。
◆日本は基礎研究がしっかりしている。半導体の材料や製造装置の分野では今も世界トップクラスだが、先端的な半導体を作り上げる能力はない。スシに例えると、ネタの魚介類(材料)や包丁(製造装置)は一流だが、料理人がいない。台湾はスシを握ること(半導体チップの製造)にかけては世界一。先端半導体の9割以上は台湾が独占している。
かつて日本の半導体が競争力を失った要因の一つとして、円高が挙げられる。今は円安局面が続いており、台湾企業にとっては日本に進出しやすい。熊本のTSMCを中心に協力し合えば、「世界一おいしいスシ」を大量生産できる。
――台湾企業を本格的に呼び込むための課題は?

◆日本はさまざまなコストが非常に高い。技術や品質は世界一だが、梱包(こんぽう)や輸送などにかかる費用が高く、多くの中小企業が経営難に陥っている。大企業も協力し合える。例えば、販売不振の日産自動車は生産ラインの一部を停止したが、受託生産大手の鴻海(ホンハイ)精密工業に使ってもらえば、電気自動車(EV)の分野で利益を分かち合える。
農業でも足りないモノを補完し合える。日本はコメが足りず、価格が上がっている。一方、台湾で生産されるコメの多くは、日本統治時代に日本人が開発した「蓬萊(ほうらい)米」に由来する。台湾と日本の自由貿易がもっと進んでほしいと願っている。
――人材の分野では、北九州市が台湾の大学と連携し、市内の企業で学生のインターンシップを受け入れる予定です。
◆人材交流には力を入れている。熊本大では先日、中国語の講師を中山大(台湾・高雄市)から派遣し、社会人も含めて勉強できる教育センターが開所した。TSMCは熊本に第2工場を作る予定だが、技術者が足りない。このため、台湾の一部の大学にはTSMCと連携した日本人向けのコースがある。TSMCの入社試験を受けることを条件に学費は免除され、半導体産業の実務に必要な知識やスキルを習得できる。
トランプ米政権の関税が発動され、海外の市場開拓や支援においても台湾と日本は協力すべきだ。東南アジアでは、多くの企業が中華圏の影響を受けている。進出の際、中国語の方言や英語を使いこなせることが台湾人の強みだ。日本とは強い信頼関係のもとで、いろんなノウハウを分かち合うことが双方の発展にとって大切になる。【聞き手・土屋渓】
ちん・めいしゅん
1964年生まれ。91年から台湾外交部(外務省)に勤務。大使館に相当する台北駐日経済文化代表処(東京)での勤務や、台湾総統府の機要室主任を経て2021年10月から現職。
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