
水や牛乳などで割って楽しむ「濃縮飲料」が好調だ。コスパ(コストパフォーマンス)の良さからくる「お得感」や、置き場所を取らないスぺパ(スペースパフォーマンス)に優れ成長してきた市場だが、近年の好調ぶりはそれだけでは語れないようだ。
音楽サブスク時代のレコードのように
サントリー食品インターナショナルは、2024年4月から主力ブランド「C.C.レモン」や「ペプシコーラ」といった商品の濃縮タイプ飲料「おうちドリンクバー」シリーズを順次展開している。
昨年の発売当初も想定より上振れの好発進だったが、今年1~8月の売れ行きは、前年比約2倍と絶好調だ。
「おいしい飲み物をただ飲むというより、作る過程や自分好みの味を見つけるというコンセプトが伝わりました」
ブランドマーケティング本部の宮内優洋さんは「タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパといった時代の流れを超えた支持」を得ている理由を分析する。
商品のラインアップには、500ミリリットルのペットボトル飲料として既にロングセラーとなっている商品の味が並ぶ。
お得とはいえ、作る手間もかかる濃縮飲料をあえて購入する消費者心理はどのようなものなのだろうか。

宮内さんは、音楽サブスク時代にレコードを買ったり、スマホで瞬時に注文できるフードデリバリーサービスがあるなかで、自宅でたこやきパーティーを楽しんだりする感覚になぞらえる。
「デジタルが発達した今だからこそ、若い人があえて『一手間』に価値があると考えるのだと思います」
体験する喜びを
スーパーで販売される実験型のお菓子を作って胸を躍らせた経験はないだろうか。
サントリーは広報戦略の一つとして、消費者の「体験価値」に訴える広告戦略を展開してきた。
動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」で、インフルエンサーに「おうちドリンクバー」を使った自分好みのレシピや味を作ってもらう「原液実験」プロジェクトを実施。
おすすめレシピを企業側から積極的に提示するだけではなく、消費者が自由に味を作る体験に重きを置いた。
実際に、購入者の声としては「作るのが楽しい」「気分や体調によって濃さを変えられる」といった過程を支持する声が多いという。
宮内さんは、去年から同業他社の濃縮飲料の商品のバラエティーが広がっていると感じている。
「コスパやスペパなど従来の価値を維持したまま、多様な味を選ぶ楽しみ方が今後の濃縮飲料市場の伸びに拍車をかけていくのではないでしょうか」

「苦い」経験を生かして
濃縮コーヒーの分野では、大手各社が先行するなか、ネスレ日本が今年3月「ネスカフェエスプレッソベース」を発売した。
専用サイトでは50種類のアレンジレシピを発信しており、牛乳や水だけではなく、オレンジジュースで割ったりペースト状につぶした焼き芋と合わせたりと、いっぷう変わった割り方まで紹介している。
実はネスレ日本は17年、牛乳と割ってカフェラテとして楽しむペットボトル型濃縮飲料を発売したが、約1年で終売した「ほろ苦い」過去がある。
しかし、ここ数年はアイスコーヒーの飲用割合が右肩上がりであることに加え、20~30代を中心にコーヒーをスイーツのようにアレンジしたドリンクを支持する動きが広がっていることに着目。濃縮飲料市場も活発化するなかで、新たな切り口での提案に向けて商品開発に注力してきた。
製品担当の吉岡修平さんは「高い気温が続く気候の変化やカフェ文化の浸透によって、コーヒーの飲み方の幅は着実に広がってきています」と話す。
拡大する市場
調査会社「インテージ」によると、濃縮飲料の販売額は24年が334億円で、17年(235億円)比で1・4倍に成長した。

濃縮コーヒー市場に絞ってみると、17年の33億円から24年には71億円まで倍増している。
インテージの木地利光・市場アナリストは「コーヒー価格上昇を背景としたコスパへの注目や、猛暑で買い物の負担を軽減したい備蓄需要などが影響して好調だったとみられる」とコメントした。【松山文音】
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