キヤノンのコンパクトデジタルカメラ「IXY」の新機種
キヤノンがコンパクトデジタルカメラ「IXY」シリーズの新機種を10月下旬に発売する。同シリーズでは9年ぶりの新製品だ。スマートフォンに押されていたコンデジ市場が復調してきたのに合わせ、増産できるよう設計を見直した。富士フイルムやリコーイメージングも新製品を投入し、カメラ撮影を「体験」として楽しみたい若年層の需要を取り込む。

10月下旬から新機種「IXY650m」を発売する。オープン価格だが、キヤノンの公式通販サイトで5万5000円で売り出す。16年5月に発売した前機種「IXY650」は24年4月以降は公式通販で4万2900円で販売していたが、需要に生産が追いつかず購入ができなくなっていた。

新製品の重さはバッテリーとメモリーカードを含んでも146グラムと軽量だ。ポケットに収まるサイズ感で持ち運びもしやすい。広角から望遠まで対応する光学12倍ズームレンズを備え、1台で人物や風景など、幅広い撮影シーンに対応できる。

ただしこうした基本性能は、旧機種「IXY650」をほぼ踏襲している。対応する記録媒体が従来のSDカードからマイクロSDカードに変わったが、それ以外に機能面では大きな変化はない。

なぜいま9年前とほぼ同じスペックの新機種を投入するのか。背景には、旺盛な若年層の需要がある。業界団体のカメラ映像機器工業会(CIPA)によれば、24年のコンデジを中心とする「レンズ一体型カメラ」の出荷台数は前年比9%増の188万台と下げ止まった。25年1〜7月期は22%増の128万台と、復調の勢いが加速している。

キヤノンの旧機種の需要も高まっていたが、コンデジ市場がピーク時から大きく縮小したことで、生産に必要な部品の一部が市場で枯渇してしまっていた。量産対応がとれず、顧客の元に届きにくい状況になるなど、機会損失が生じていた。

新製品は内部の設計を刷新することで、量産対応がとれるようにした。新製品の商品規格を担当したキヤノンのイメージング事業本部の山田悠太氏は「20代前半など小さい時からスマホに慣れ親しんだ世代は、デジタルカメラでの撮影を新鮮な体験と感じている」と話し、若年層の囲い込みに意欲を示す。

16年に旧機種を発売した当時は子供を撮影したいファミリー層が主な顧客だった。スマホ普及で最も打撃を受けたコンデジだが、消費者の価値観の変化を受けて新たな需要が生まれている。

キヤノンはコンデジで新製品を相次ぎ投入している。4月には本格的な動画撮影ができるコンデジ「パワーショット V1」を発売した。日常の様子を撮影して投稿する「Vlog(ブイログ)」の撮影や、SNS(交流サイト)上で動画配信を楽しむ人の需要を取り込む。

富士フイルムのコンパクトデジタルカメラ「エックスハーフ」

競合も黙ってはいない。富士フイルムも6月に、デジカメでは珍しい縦構図の写真が撮れるコンデジ「エックスハーフ」を投入した。専用のスマホアプリとの連携機能も備え、カメラに興味を持ち始めた初心者層の需要を狙う。リコー傘下のリコーイメージングも、スナップ写真に特化したコンデジ「GRシリーズ」の新製品を9月に発売している。

リコーイメージングのコンパクトデジタルカメラ「リコー ジーアール フォー」

プロ向けの高級コンデジを投入する例もある。ソニーグループ傘下のソニーは、8月に価格が60万円を超えるコンデジの最上位機種を発売した。プロカメラマンが日常風景の撮影などで表現の幅を広げるために使うことを想定している。

一時は崖っぷちに立たされたコンデジだが、若年層の需要を受けて競争が激化している。スマホの画質向上も続くなか、カメラメーカー各社は引き続き差別化に向けて知恵を絞ることが求められている。(山田航平)

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