今年5月、2035年を目標年度にしたJFEグループの長期ビジョンを発表しました。3年間の中期経営計画はこれまでも発表していましたが、長期の経営計画を公表するのは初めてです。50年に温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を達成するうえで、35年が節目になると考えました。地球温暖化という大きな課題に立ち向かうには、長期的な視点で戦略を練る必要があります。
日本の産業界が排出する二酸化炭素(CO2)の約40%は鉄鋼業が占めています。GHG排出削減は経営の重要課題であり、技術開発でトップランナーを目指すことを長期ビジョンで掲げました。現在、GHGを排出せずに鉄を製造する方法は存在しません。当社は製鉄技術で「超革新高炉」「水素直接還元法」「高効率・大型電気炉」という3つの方法の研究開発を進めています。35年には技術開発にめどをつけ、実際に導入していく計画です。
気候変動を招く地球温暖化は、人類が越えなければならない課題です。一方で、企業がこの課題を解決していくには経済性も重要になります。環境的持続性と経済的持続性が両立しないと、本当の意味で持続可能な社会になり得ないのです。
例えば、GHGの排出量を抑えてつくるグリーン鋼材は製造コストが上がるため、環境価値の分だけ価格に上乗せしないと経済的には成り立ちません。環境価値を見える化することが第一歩であり、日本の鉄鋼業界はGHG排出削減量を「マスバランス方式」によって任意の鋼材に割り当てる手法を提唱し、国際標準化を目指しています。

この環境価値をどう認めてもらい、社会全体で負担するかが、普及の課題になります。また、このような取り組みには官民の連携も必要であり、日本や欧州などでは、脱炭素の技術開発や製造プロセス転換に対し、政府も支援をしています。
資源に乏しい日本が成長するには、やはり技術立国を目指すべきでしょう。イノベーションは何段階もある関門を乗り越えて生まれるものです。状況変化に耐えるために時間軸も設定し、3年程度の間隔でステージゲートを設けて検証を繰り返すことが重要です。当社も3つの製鉄技術を進化させ、将来は世界に展開する考えです。
環境的持続性と経済的持続性を両立させ、日本がカーボンニュートラルで世界をリードすることができれば、日本の経済成長、産業競争力強化が実現します。JFEはその未来を担うトップランナーとして長期にわたり、挑み続けます。
地球温暖化のほかにも食料や資源の問題、民族間の紛争など人類が直面する課題はいくつもあります。しかも克服への道のりは長いでしょう。そこでみなさんにお聞きします。先が長い挑戦、続けるために何が必要でしょうか。様々な課題に対するアイデアをお待ちしています。
JFEホールディングス・北野嘉久社長の課題に対するアイデアを募集します。投稿はこちら(https://esf.nikkei.co.jp/future20251006/)から。編集委員から
嫌になるほど長く続いた猛暑や短時間での記録的な豪雨など、みなさんもこの夏、気候変動の影響の怖さを改めて感じたと思います。地球温暖化は私たちの生活を脅かす大きな問題であり、何とか克服しなければなりません。
温室効果ガスの排出削減に向けた世界の取り組みは決して順調とは言えません。先進国と新興国ではかねて姿勢に温度差があったうえ、トランプ政権となった米国は気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明しました。国家間の足並みの乱れは懸念材料です。
企業の取り組みにも変調が見えます。製造時にCO2を排出しない「グリーン水素」や、洋上風力発電に関するプロジェクトで撤退や先送りが国内外で相次いでいます。採算上のリスクが企業の設備投資にブレーキをかけています。
ただ気候変動対策は不可欠であり、最近の停滞は試練だと考えるべきでしょう。大きな挑戦にはそれだけ困難が伴い、長丁場の努力が求められます。(編集委員 半沢二喜)
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今回の課題は「先が長い挑戦、続けるために何が必要ですか?」です。420字程度にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは14日(火)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、27日(月)付の未来面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/future/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。
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