新たに松尾酒造の共同経営者になる平野宏明さん(右)と7代目の松尾禎之さん=高知県香美市で2025年10月3日午後0時18分、小林理撮影
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 「高知県で一番小さな酒蔵を継ぎます」。同県香美市で創業152年の歴史を持つ「松尾酒造」の共同経営者に、海外でMBA(経営学修士)を取得した経歴を持つ平野宏明さん(54)が就任することになった。10年前、首都圏から同市に移住した平野さんは「この仕事をするのが自分の運命だったと感じています」と話している。

 松尾酒造は1873(明治6)年創業の老舗酒蔵。現在経営する松尾禎之さん(72)は7代目に当たる。手作りと地元の素材にこだわる酒造りを続けてきたが、松尾さんが実質1人で酒造りをする期間があるなど、従業員の確保と後継者探しが大きな課題となっていた。

 そんな折り、2015年に妻の実家がある同市に移住していた平野さんが、19年に土佐酒の飲み比べができる「日本酒バー TOSA GATE」を高知龍馬空港(南国市)に設置する企画を実現させたことで、松尾さんと平野さんの関係が深まった。

 ロンドン大学ロンドンビジネススクールでMBAを取得し、外資系経営コンサルティング会社の日本支社長も務めた平野さんはワイン好き。移住後に知った土佐酒のうまさにも心ひかれ、土佐酒アドバイザーの認定を受けるなど、自分で精力的に土佐酒について学んでいた。

主力製品のデザインを一新した。左手前の松翁は旧デザイン、その他は新デザイン=高知県香美市で2025年10月3日午後0時15分、小林理撮影
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 平野さんは、松尾さんが作る酒を飲んで「とてもおいしいのに、世間に知られていない」と感じたという。仕込みの人員が不足していたことから、松尾さんが手伝いを打診したところ、平野さんは「やります」と受け、23年から松尾酒造の酒造りに関係し始めた。作業を通して信頼が深まり、平野さんが「ぜひ一緒に経営をしたい」と松尾さんに頼み、快諾されたという。

 松尾さんは「地域に育てられてきた貴重な蔵なので、やめるのはもったいないと考えていた。『高知の酒は高知で一緒に飲もう』という私の言葉も、平野さんは理解してくれてありがたい」と話す。平野さんは「近所の人に野菜をもらっても、これまでは買ったものを差し上げることしかできなかった。これからは自分で作ったお酒を渡せるのがうれしい」と、ものづくりに携われる喜びを笑顔で語る。

 平野さんはこれまでの経歴から、酒造りの道に至るのは自分にとっては必然だったと心境を明かす。「経営コンサルタント、ワイン好き、香美市への移住――。すべてが松尾酒造で働くことに運命的につながって、『この仕事をするためにこれまでがあった』と感じました」。

 11月に開く株主総会で平野さんが代表権を持つ副社長に就任し、社長の松尾さんと共同経営に当たる。既に平野さん主導でブランド戦略の強化に乗り出しており、9月以降、ホームページと商品パンフレットを一新。メーンブランド「松翁(まつおきな)」のデザインも変えた。今後は蔵に試飲コーナーも新設し、外国人旅行者を含めた観光客の見学も積極的に受け入れる計画だ。【小林理】

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