
海風が吹く高台の畑でトウガラシの収穫が進んでいた。九州北部の佐賀県唐津市は古くから大陸と関わり、香辛料が伝わった地との説もある。ここで育ったトウガラシは辛みが強く、少量でも鋭い刺激があると好評だ。
秋の大祭「唐津くんち」の曳山(ひきやま)にちなんだ一味唐辛子「赤獅子(じし)」と「青獅子」は、地元企業「クラベル・ジャパン」(唐津市和多田本村)が製造している。

社長の平田憲市郎さん(46)は花卉(かき)農家の3代目で、18年ごろから夏場の収入源としてトウガラシを研究。流通品のほとんどが輸入頼みながら国産へのニーズは高く、耕作放棄地を購入し、栽培を始めた。
しかし、ヘタ取りなど作業が追いつかない。ピンチを救ったのは市内の福祉施設だった。その一つで就労継続支援事業所「愛の木」では、利用者約10人がトウガラシの選別などを担う。代表の山口ひろみさん(51)は「特性を生かして働き、対価を得る。利用者もスタッフも好循環を実感しています」。

県の農村ビジネス推進事業「さがアグリヒーローズ」に選ばれたことも追い風になった。この事業で気鋭のスタジオ「テツシンデザイン」(福岡市)が22年、商品名とパッケージを現在のものに刷新。トウガラシの花が咲くラベルの缶で、売り上げは10倍以上に跳ね上がった。
平田さんはその年、飲食店や施設の仲間と「唐津ピリカラ協会」を発足させた。「刺激」し合ってトウガラシの一大産地にし、農業体験などを通して「文化を創る」のが目標だ。

今年の生産量は30~40トンと見込む。これは全国統計でトップの京都と大分の年間収穫量(44トン、22年)に続くクラス。平田さんは「それぞれが得意なことを生かし、楽しみながら進める相乗効果は計り知れない。唐津から全国にスパイスを届けたい」と笑顔を見せた。【田後真里】
唐津ピリカラ協会の取扱商品
鋭い辛さで温かい料理に向く「赤獅子」(13グラム、540円)▽爽やかな香りで冷たい料理に向く「青獅子」(同)▽特選七味「七宝丸(しちほうまる)」(8グラム、648円)ほか。唐津の老舗「宮島醬油(しょうゆ)」からは調味料「青獅子たれ醬油味」(250グラム、648円)など。全国のスーパーや小売店で販売。クラベル・ジャパン(0955・67・4877)。
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