レースで勝つために作られた
日産GT-Rが登場したのは2007年。以後18年間、基本部分はそのままに改良が重ねられ、近年は「イヤーモデル(※1)」として進化してきたのが現行のGT-Rだ。型式名から「R35」の愛称で親しまれている。その源流は、1969年に登場した初代スカイラインGT-Rにさかのぼる。4ドアセダンのスカイラインをベースに、エンジンを直列4気筒から直列6気筒に変更するなど高性能化を図ったスポーツモデルだ。
初代スカイラインGT-Rのレース仕様車。1969年のJAFグランプリでレース初陣を飾り、伝説となった49連勝を含む全52勝を挙げた(日産自動車提供)
初代は箱のような四角い外観から、「ハコスカGT-R」の愛称を持つ。当時はレースで勝つことが高性能の証とされ、市販車の販売台数に大きく影響した時代だった。当時の最新技術を盛り込んだ2.0L・直列6気筒DOHCのS20型エンジンを搭載し、圧倒的な速さで国内レース49連勝。「レースに勝つための高性能マシン」というGT-Rのイメージを確立した。
1973年に登場したスカイラインGT-Rの2代目。ベースは「ケンメリ」の愛称で知られるGC110型スカイライン(日産自動車提供)
73年には「ケンメリ(※2)」の愛称で親しまれたGC110型スカイラインをベースに、2代目スカイラインGT-Rが登場した。だが、当時の排出ガス規制強化への対応が難しく、発売わずか3カ月で生産中止となってしまった。
復活、生産終了、そして再復活
スカイラインGT-Rが復活を遂げたのは、16年後の1989年だ。型式名から「R32型」と呼ばれる3代目で、エンジンには2.6L・直列6気筒DOHCツインターボを採用した。当時、国産車最強といわれた最高出力280馬力(PS)により、高い走行性能を実現した。当時の国内レースのトップカテゴリー「全日本ツーリングカー選手権(JTC)」では、90~93年の4シーズンで29戦全勝という偉業を達成した。ベルギーで開催される「スパ・フランコルシャン24時間レース」など海外でも高く評価され、世界中にその名を轟かせた。
R32型スカイラインGT-Rは、1990年にレースデビュー。全日本ツーリングカー選手権(JTC)で4シーズン全29戦をすべて優勝するという快挙を達成した。写真は90年のチャンピオンに輝いたレース仕様車(日産自動車提供)
95年に4代目「R33型」、99年には5代目「R34型」が登場した。いずれもハイスペックのスポーツカーとして人気を博したが、R34型は2002年に惜しまれつつ生産を終了。理由は、またしても排出ガス規制への対応だった。
歴代スカイラインGT-R。中央手前が初代、左奥から2代目、3代目、4代目、5代目と並ぶ。日本はもちろん、海外の旧車オークションなどでも引く手あまたの人気ぶりだ(日産自動車提供)
R34型の生産終了から5年後の07年に登場したのが、現行のR35型である。経営再建を迫られていた日産が当時のCEO、カルロス・ゴーン氏の下で開発を進め、日産復活の象徴となったモデルだ。従来の「レース最速」というコンセプトから脱却し、公道での運転性能を追求した。ライバルにはドイツのポルシェなどを見据え、「長距離を快適に高速移動できる高級スポーツカー」と位置づけた。それまでの国内販売のみから、世界展開するグローバルモデルとしたうえで、車名も「スカイラインGT-R」から「日産GT-R」に変更した。まさに日産復活のシンボルとされた車だった。
R35型GT-Rの最終仕様となった2025年モデル(日産自動車提供)
世界的ブランドに幕
R34型以前の世代は前述の通り、いずれも基本的には海外販売をしていなかった。だが、海外レースでの好戦績、さまざまなコンテンツへの登場などにより、その高性能ぶりは欧米などで認知されていた。
1999年に発売されたスカイラインGT-Rの5代目となるR34型。R33型よりもボディサイズを縮小し、フットワークに優れた運動性能を誇った。映画『ワイルドスピード』シリーズに登場したことで、「GT-R」の名を一躍世界に知らしめた(日産自動車提供)
5代目のR34型は、米ハリウッドのカーアクション映画『ワイルドスピード』シリーズで使用され、幅広いファンを獲得した。歴代GT-Rは、家庭用ゲーム機「プレイステーション」のドライビングシミュレーションゲームソフト「グランツーリスモ」シリーズにも登場し、車愛好家だけでなく、ゲームファンなど幅広い人たちが歴代GT-Rの高性能ぶりに心酔した。こうしてGT-Rは、日産だけでなく日本が誇るスポーツカーの世界的ブランドに成長したのだ。
ちなみに、近年は1960年代や90年代に生産された日本製スポーツカーの旧車が、海外オークションなどへ出品され高値で取引されている。60年代の名車「トヨタ2000GT」は1億円超になるほどだ。スカイラインGT-Rシリーズも人気が高く、R32型やR34型などが数千万円で取引されているという。
このように、海外でも高い評価を受けた名車を継承するのがR35型だ。搭載する3.8L・V型6気筒ツインターボエンジンは、9人の「匠」と呼ばれる職人によって1基ずつ手作業で組み立てられ、高い品質と性能が維持されてきた。
R35型GT-Rには、VR38DETT型と呼ばれる3.8L・V型6気筒ツインターボエンジンが搭載されている(日産自動車提供)
R35型GT-Rのエンジンは、9人の「匠」と呼ばれる専門の職人によって1基ずつ手作業で組み立てられ、担当した職人の名前を記したプレートが取り付けられる(日産自動車提供)
最終仕様となった2025年モデルは、スタンダード車で最高出力570PS、高効率大容量の専用タービンを搭載したGT-Rニスモは、600PSもの大パワーを発揮する。税込み価格は約1444万~約2289万円と破格だったが、日本はもちろん、欧米やアジアなどでも一定のファンを獲得した。それにもかかわらず、社会全体のスポーツカー人気の低迷、排出ガスなど各種規制強化への対応を迫られ、3度目の生産終了を余儀なくされた。初代スカイラインGT-Rから数え、56年に及ぶ歴史だった。
GT-R史上最強といわれる「日産GT-Rニスモ スペシャルエディション」。最高出力600PSもの大パワーを発揮し、税込み価格は約3061万円と高額だった=2025年1月、千葉市美浜区の幕張メッセ(筆者撮影)
R35型GT-Rを生産した日産・栃木工場で、生産終了に伴うオフライン式が行われた。2007年の登場以来、18年間で約4万8000台が生産された。最後の1台は「Premium edition T-Spec」というグレードで、ボディカラーはミッドナイトパープルだった=2025年8月26日(日産自動車提供)
電動化に新たな道
姿を消すGT-Rと対照的なのが、24年ぶりに復活したホンダのプレリュードだ。プレリュードは初代が1978年に登場した歴史あるスポーツモデルで、特に80年代の2代目、3代目は斬新なデザインで女性からも強い支持を得た。男性が女性を誘ってドライブするのに最適な車として、いわゆる「デートカー」ブームのけん引役となった。
24年ぶりに復活し、2025年9月5日に発売されたホンダのプレリュード(本田技研工業提供)
6代目となる新型は、独自の2モーター式ハイブリッドシステム「e:HEV」と、新技術「ホンダS+シフト」の搭載により、ハイブリッド車ならではの高い環境性能と、スポーツカーらしいダイレクトな駆動レスポンスなどを両立させた。他メーカーのハイブリッドモデルにはない新機軸の「電動スペシャリティーカー」に仕上がっている。
新しいプレリュードは、2.0L・4気筒エンジンと2モーター式ハイブリッドe:HEVシステムを採用している(筆者撮影)
日産に限らず日本メーカーは近年、スポーツカーの生産を縮小してきた。流れに逆行するかのように、ホンダがプレリュードを復活させたのには、「失われつつあるブランドの独自性復活」という狙いがあるという。プレリュードが一斉を風靡(ふうび)した80年代のホンダは、F1参戦などと相まって「挑戦する自動車メーカー」としてのイメージが強かった。だが、同社の独自調査によれば、近年は「そうしたイメージが薄れている」といい、「年齢層が下がるにつれて好感度も低下」する傾向にあるという。「他社にない電動専用スポーツモデル」としてプレリュードを世界市場に投入することで、「挑戦者としてのイメージ復活や他社との差別化を図る」のだという。
新型プレリュードの外観デザインは、大空を滑空する「グライダー」をイメージ。低く伸びたシルエットが印象的だ(筆者撮影)
一方、日産は2024年度決算で巨額の赤字に陥り、経営再建を迫られている。排出ガスや騒音などに対する規制は年々厳しくなり、それらをクリアするには巨額のコストがかかる。電動化に主軸を置く日産としては、ICE(内燃機関エンジン)に多額の資金を投じる余裕はない。こうした事情は、40年に自社の4輪車を100%電動化する目標を掲げているホンダも同様だ。だからこそ、名車プレリュードを最新の電動化技術を用いて復活させることで、新たな道を切り拓こうとしているのだ。
GT-Rが再びよみがえる道も、ここにあるのではないだろうか。最新技術により電動スポーツカーとして復活させる──。傷ついた日産ブランドのイメージ回復に、世界中にファンを持つGT-Rは大きな貢献をするはずだ。CEOのイバン・エスピノーサ氏は、2025年8月26日のGT-R生産終了にあたってのコメントで「現時点で正確な計画は確定していないが、GT-Rは進化し、再び登場するだろう」と復活を示唆した。近い将来、より高性能、よりクリーン、より安全な電動ハイパースポーツカーとして、GT-Rが新たな姿を見せることを期待したい。
(※1) ^ モデルが発売された年を示す表記で、製造された年とは異なる
(※2) ^ 販売広告戦略で、ケンとメリーという若いカップルがスカイラインで旅をするというストーリーが展開されて話題となり、「ケンメリ」の愛称がついた
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