【ワシントン=秋田咲】国際通貨基金(IMF)は14日、国際金融安定性報告書(GFSR)を公表した。ステーブルコインなど民間発行の暗号資産(仮想通貨)市場が2025年に2300億ドル(34兆5000億円)規模に達し、過去6年で70倍超に膨張したと指摘した。金融システムに与えるリスクに警鐘を鳴らし、規制や監督制度の整備を唱えた。

法定通貨に価値が連動するステーブルコイン市場は米テザー社の「USDT」や米サークル社の「USDC」を中心に急速に成長している。IMFは既にこれらの暗号資産が伝統的な安全資産や銀行預金に代わる選択肢になっているとの見方を示した。

ステーブルコイン市場の拡大には主に、①新興国の政策影響力の低下②信用仲介機能への影響③裏付け資産の強制売却に伴う取り付け騒ぎ――の3つリスクが潜んでいるとIMFは指摘する。

1つ目は、新興国などを念頭に通貨代替がもたらすリスクだ。ステーブルコインは北米から各国へと送金されており、米国以外の地域におけるドル需要の強さを映しているとされる。

こうした国でドル建ての仮想通貨が急速に普及すると、物価安定を目的に中央銀行が実施する金融政策の影響力が弱まりやすくなるとみる。広く国内で使われるお金が実物の通貨からステーブルコインに移行すると、「通貨発行益」と呼ばれる中銀が銀行券の発行で得た資金を国債などで運用して得る利息収入が減少するリスクもある。

2つ目のリスクは、銀行預金がステーブルコインに急速に置き換わる際、裏付け資産となる短期国債への需要が高まることに伴うものだ。こうした状況下では従来、預金でまかなわれていた長期債や融資への資金が目減りする可能性がある。銀行は家計や企業に貸し出すための資金を集めにくくなり、金融機関の信用仲介機能が弱まる懸念があるという。

銀行の「取り付け騒ぎ」のような状況が起きてステーブルコインの保有者が一斉に換金しようとした場合には、発行体は自らがもつ銀行預金などの準備資産を急いで売る必要に迫られる。その影響が預金や国債市場やレポ市場に波及する恐れがあるというのがIMFが警戒する3つ目のリスクだ。

IMFはGFSRで、ステーブルコインが金融システムにおいて過剰なリスクテイクなどの懸念を招いていると結論付けた。同市場の世界的な成長が国境を越えた資本移動にも影響を与えるとも指摘した。足元で差し迫った金融安定へのリスクとしては顕在化していないとしつつも、規制と監督制度の整備を求めた。

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