
【ニューヨーク=竹内弘文】米国の銀行による融資の質への警戒感が金融市場で募っている。16日には有力地銀2行による不良債権開示が引き金となり地銀株が軒並み売られ、17日は反発したものの前日の下げを取り戻すにはほど遠かった。融資債権の証券化商品で運用する上場ファンドからも資金流出が見られる。
地銀株、下落分は取り戻せず
ザイオンズ・バンコーポレーションの米証券取引委員会(SEC)提出資料によると、子会社の銀行の融資に関して不正を発見したとして借り手を提訴した。ザイオンズは約6000万ドル(約90億円)を貸倒引当金として計上した。ウエスタン・アライアンス・バンコーポレーション(WAL)も同様の提訴に踏み切ったという開示を出した。

裁判資料によると、両行の融資先は同一の不動産投資ファンド。ザイオンズ株は16日に13%安、WAL株は11%安と急落。売りは幅広い地銀に及んだ。17日にはそれぞれザイオンズは6%高、WALも3%高と反発したが、前日下げた分を取り戻せていない。
幅広い地銀株の動向を示す「SPDR S&P地銀ETF(上場投資信託)」は2%高と、前日の6%安に比べて小幅な反発にとどまった。
9月には米中古車販売・ローン事業者トライカラー・ホールディングスと米自動車部品メーカー、ファースト・ブランズ・グループ(FBG)が相次いで経営破綻した。いずれも不正や複雑な資金調達手法が債務の実態を不透明にしていたと指摘されていた。
ザイオンズやWALによる不動産投資の件も含め、それぞれが独立した事案ではあるが、相次ぐ問題の発生は銀行の融資債権の健全性に対する疑念を生じさせた。米景気の底堅さや良好な金融環境、融資規模を拡大するプライベートクレジット(ノンバンク融資)との競争もあり、銀行による与信の目が曇ったという見方がある。
米格付け大手ムーディーズ・レーティングスのプライベートクレジット担当グローバル責任者、マーク・ピント氏は17日、米CNBCの番組で「全体として融資債権の質の悪化はみられない」と説明する一方「(ノンバンク融資の主要な形態である)直接融資も銀行の協調融資も融資条件は緩くなっている」と指摘した。
ファンドからも資金流出
銀行の協調融資を証券化したローン担保証券(CLO)の需要動向にも影響が出始めた。CLOは原資産である融資債権が生むキャッシュフローをリスクに応じて束ねなおした金融商品だ。
QUICK・ファクトセットによると、格付け最上級トリプルA格のCLOで運用する上場投資信託(ETF)「ジャナス・ヘンダーソンAAA CLO ETF」からは16日、3億1400万ドルの資金が流出した。1日の資金流出額としては5月1日以来、約5カ月半ぶりの大きさを記録した。BBB格のCLOで運用する別のETFも資産流出に見舞われている。
米企業の2025年7〜9月期の決算発表が本格化している。17日発表したフィフス・サード・バンコープはトライカラー融資に関する貸倒損失1億7800万ドルを計上した。ザイオンズは20日、WALは21日に決算発表を予定する。
23年春にシリコンバレーバンク(SVB)など複数の米地銀が相次ぎ破綻した際は、決算発表の内容によって信用不安が増幅され、株価が急変動するケースが見られた。いつも以上に決算に注目が集まりそうだ。
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