
チリ中部の権益で隣接する鉱山と共同操業して生産を効率化するほか、北部の権益では加工施設を新設する。
20.4%出資する銅事業会社アングロ・アメリカン・スール(AAS)のチリ中部の鉱山では30年にチリ国営大手コデルコがもつ近隣の鉱山と共同操業に切り替える方針だ。
鉱山で爆薬を用いて岩石を砕いたり、ショベルで作業したりする場合、隣接する鉱山では安全の観点から互いに制約がある。共同操業によって生産面で連携し、調整しやすくする。掘り出した銅鉱石は粉状に砕いた後、水に浮かせて銅を取り出す「選鉱」と呼ぶ工程があるが、設備を共有して効率化する。
同鉱山で三菱商事がもつ出資比率に応じた権益は24年の生産量ベースで4.5万トン。30年に共同操業すると、生産量は平均で年1.2万トン増える見通しだ。
デジタル版「日経ヴェリタス」は、「投資が分かり、面白くなる」がコンセプトの専門メディアです。週末じっくり、平日は効率的に 日経ヴェリタスの読み方オーストラリアの資源大手BHPグループなどと共同出資するチリ北部のエスコンディダ銅鉱山では運営会社が20億ドル(約3000億円)を投じて選鉱の設備を増やす。「銅鉱山では採掘が進むと、鉱石の銅の含有量が減るため、処理能力を高める必要がある」(三菱商事の広報担当者)
同鉱山で三菱商事の権益は24年で10.2万トンある。設備の増強によって安定的な生産・供給につなげていく。
米国では6億ドルを投資し、アリゾナ州の鉱山カッパーワールドの権益30%を取得する。8月、事業を主導するカナダのハドベイ・ミネラルズと合意した。29年ごろの稼働を目指しており、最大3万トン程度の権益になる。米国で銅権益への出資は約45年ぶりだ。
大和証券の永野雅幸シニアアナリストは米事業について「(初期投資額である)生産単位あたりのCAPEX(資本的支出)が結構安いことは評価できる。OPEX(運営コスト)がどうなるのかに注目したい」と語る。
三菱商事が出資する稼働中の銅鉱山はペルーで2件、チリで3件。チリで4件目の出資となるマリマカ銅鉱山が30年ごろに生産が始まる予定だ。全体で24年に32.9万トンだった生産量が30年度以降に目標の40万トン超を実現すれば、世界順位は24年の20位から15位前後にあがる可能性がある。銅権益による純利益は25年3月期は743億円と、前の期比16%増えた。

銅は高い導電性と熱伝導性を持ち、加工しやすい。用途の約7割は電線向けで、送電線のほか自動車や家電にも使われる。生成AIで需要が増えるデータセンターでも需要増加が続く。屋外にある電線や自動車の熱交換器などの一部は銅からアルミに代替されてきたが、アルミは銅よりも導電性が低いため、同じ量の電気を伝えるにはより大型化してしまう。他の金属に代替しづらいことも銅需要を押し上げている。
国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、世界の総需要量は24年の約2700万トンから30年には約3100万トンに増える(鉱山から採掘される銅とリサイクル品を含む)。30年時点の供給量(標準予測ベース)は約2800万トンで、供給不足になる見通しだ。好需給が続くとの思惑から、国別の銅生産量で首位のチリなど上位国が相次ぎ生産量を増やし、BHPグループなどの世界大手が増産を図っている。

もっとも、世界で新たな銅鉱山が見つかる頻度は低下傾向にある。大和証券の永野氏は「銅鉱山は既存事業でも(採掘が進むに従って)鉱石の品位が低下していく傾向にあり、生産数量の維持は簡単ではない」と指摘する。収益に結びつけるため、投資に見合う生産拡大を実現できるかどうかが次の焦点となる。
(渡辺伸)
[デジタル版・日経ヴェリタス2025年9月10日公開 投資テーマ解剖を要約]
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